第12話『VSジャック』
雷は試合前に憐と通話をしていた。一応あの機体は何か聞こうとしたのであるが、憐の環境音がえげつなかったので一回止めて貰う事にした。流石に鉄を削ったり溶接したりという音声の中で電話する訳にもいかなかったのか、一旦作業を止めて電話してくれた。
『よぉ雷?』
「どうした憐」
一応雷が先にかけたのだが、一旦作業を終わらせたのでなぜか憐の方が先にかけた感じになっている。そして憐は調べた情報を淡々と伝えていく。
『奴の機体をちょっと調べててなぁ……気が付いたことがあったんだよ』
「何だ?」
『乗り手の方なんだがな?元々は『新人狩りのジャック』呼ばわりされていたんだとよ』
乗り手の方の情報なのかと思うだろうが、まぁ確かにその辺は気になっていたので聞いておく。どうやらジャックという男はとても悪名高い奴だったようで、自分より強そうなルーキーがいると潰しに行くというまぁ悪質な奴であった。最近はほとんど見かけないようであったが、まさかここで戦うとは思っていなかったわけであった。
「……あ、機体の情報じゃないんだ」
憐はあっけらかんとした態度で話す。ハッキリといって機体はそんなに強くない。というか一点物にしては並み程度の貧弱機体である。本人の力が強いというだけの事。要するにヤバいのはジャックの方であった。
『機体に関しては言っちゃあ何だがそんなに強くねぇぞ。お前ならたぶん勝てる』
「そうなんか……まぁいいや、それなら行ってくる!」
『勝った後はその辺で飯食いに行くか』
一応付いている爪が外れるという事は聞いたが、流石にその程度にやられるわけもないだろうと高を括り、そして闘技場に入って行く。ナレーター達もいきなりの凄く強い新人にうっきうきの様子であった。
『さぁ始まりましたよ決勝戦!』
『今回の戦いでは決勝戦でイエローになります。なので機体がぶっ壊れる可能性がありますが……何せジャックさんが直々にこれでやれという物ですからね……』
『毎回イエローにしてますからね。それだけ自身があるという事なのでしょうかね?』
『そうかもしれませんね。さて、それではいよいよ戦闘が開始されます』
そして試合前に二人の挨拶がある。雷とジャックの二人が闘技場の真ん中で話し合う。正直一触即発ってレベルの状態にあったが。それでも一応話しておくのが良いと判断したのだ、二人は殺気をビンビンにしながら会話していく。
「よぉ」
「……何?」
「俺ぁ……お前がここに来ると確信してたのさ、そうでなきゃぁ……こいつを着てきてねぇよ」
一点物を見せつけるようにポーズを始めるジャック。ため息を付き、どうでも良いというように返答を返す雷。明らかにその声には呆れの感情が含まれていた。
「それは信頼?」
「いいや?……信頼じゃあねぇ、……そうでなけりゃぁ……俺はお前をぶち殺しに行ってたからな?」
何を言っているんだと思うだろうが、相手は恐ろしい程認めさせるようにそのセリフを言っているのだ、つまりはマジで決勝戦に来れて居なかったら殺されていたかもしれないという事であった。
「……ヤクザもびっくりだよそれにゃぁ……」
「まぁいい。……とっととぶちのめしあおうぜぇ……!」
そうして戦闘が始まると同時に、ジャックは何と雷に向かって思いきりその爪を叩きつける。その結果ボディの部分がぶっ壊れてしまい、胴体もがら空きになってしまう。
「不意打ち……!?」
「俺はなんでも使うってのがポリシーになってるんだよぉ……!これは戦闘だ試合じゃねぇんだよ!不意打ちもルール違反も糞もねぇんだ!勝った方が勝者!負けた方が敗者!それだけなんだよぉ!」
ハッキリ言ってそれは雷にとって正論とも言える一言であった。スラムで散々学んだことでもある。昨日の友が明日の敵になっていることはザラ。悪けりゃ皆殺しにされていることもしばしばであった。
「……確かに正論ではあるな」
「だろぉ?」
不意打ちの次の打撃を受け止めて、そして雷はジャックに対して拳を握りしめながらこう答えを返す。
「だったら俺がお前をぶちのめしても良いって事だよな?」
「あ?」
途轍もなく速いグーパンチ。それはジャックの顔を捉え、そして真っ正面からその一撃を捉えてしまった結果、ジャックの体は派手に吹っ飛んで壁に叩きつけられる。ジャックはそれを捉えることが出来ずにもろに当たってしあう。
「おごぉッ!?」
「……鎧が壊れたおかげで軽くなったぜ……」
忌々しげに腕を見つめる雷。ボディはがら空きになった物の、腕の武装は問題なく使える。一応ボディの装甲をぶっ壊されて軽くなるとかは無い、ただ負け惜しみのような物であった。そしてナレーター達はカウンター気味に放たれた攻撃を見えていなかったのか適当に話しながら解説していく。
『おっと!攻撃を当てたはずのジャック選手の方が吹っ飛んでいます?!これはどういうことなのでしょうか?』
『イエローはHPが無いですからね、最悪一部分だけ残っていれば戦えます。既に体の部分は残っていませんが、腕の部分が残っていれば戦えますからね』
『成程……それでぶっ飛ばしたって訳ですか……っと動きましたよ!』
壁に叩きつけられたジャックであったが、すぐに壁から飛び出ると、雷の前まで急接近する。そしてがら空きの腹めがけて蹴りを放つが、それを避けられ再び地面に叩きつけられる。だがそれでもあっさりと立ち直ると、ピンピンしている様子を観客達に見せつける。
「ハッ!その程度じゃ死なねぇよボケ!」
「……そうらしいな」
そしてジャックも攻撃を始める。爪をビットのように飛ばし、彼の行動範囲を狭めると同時にかなりのプレッシャーをかけていく。
「しぃッ!」
そしてそのうちの一つが彼の足に突き刺さる。スーツを貫通したその一撃だが、それでもまだ決着が付いたわけではない。だが何やら毒が盛られていたのか、急激に行動が遅くなっていく。
「はーッ!動きが鈍くなったなぁ!」
そして動きが鈍った雷めがけてパンチやキックなどの攻撃を叩きつけていくジャック。腕や足を狙わずに、頭や腹などの装甲が壊れた場所を狙っていく。
「足に爪が刺さってやがる……!動きにくい!」
「オラオラどうしたぁ!?このままじゃお前の負けだぜぇ!?」
一応何とか捌いている物の、何回かは当たっており、そしてかなり痛い。だがあの場所にいた時に比べればこの程度は屁でもない。しかし今彼に逆転の一手が無いのもまた事実。それ故に彼はこの戦闘でかなり考えていた。
「うるせぇ!……しかしこの手が厄介なのは否めねぇ!」
と雷が苦戦している時、憐はと言うと設計書を完成させて、後はパーツを集めて組み立てるだけとなっていた。しかしパーツの発注には時間がかかる。それも含めての一か月であったのだ。
「……よし、後は素材を買うだけだが……ちょっとパーツが足りないかな。……そういやアイツ何の大会に行ってたんだっけか?」
そして遂に蓮は雷の試合を見ることにしたのであった。
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