第7話『契約』


練習場から出てきた雷は、開口一番先生に対してブチ切れる。他人が危うく死ぬかもしれなかったのだ、これではブチ切れるのもしょうがないことであろう。先生を問い詰めていく。


「おいお前!誰もいないって言っただろうが!」


「……いやたった一人くらいいいかと思ってな」


その一言に更にムカついたのか、胸ぐらを掴みながら頭を揺らし、とことん責め倒す。流石に先生も今回は自分に非があるので何も言えなかった。


「アイツが死にかけたんだぞ!?お前責任者だろ!」


「……」


胸ぐらを離し、ムカつきながらもとことん冷静である彼は、とりあえずもう一度憐に話しかけようとする。当然文句を言いに行くのである。強い怒りと、よくこれを作ったなという関心のような感情が彼の中で渦を巻いていた。


「まぁいい、お前はもうどうでもいい。俺が文句を言いたいのはお前じゃねぇあの憐の方だ!アイツなんてわけわかんねぇ機体を作ってんだ全く!文句言いに行ってくる!」


そして部屋のドアを破壊すると、憐に対してエンドのスーツ前の機械を投げつける。憐の頭に当たり、そして彼も雷の方を向く。互いにムカついていた。雷は機体があまりにもクソであるという事に、憐は機体制作を邪魔されたことに。


「何だ?」


「エンド、かなりふざけた機体だなこりゃ。えぇ?誰が設計したんだよこんなもの」


吐き捨てるようにその言葉を喋っていくと、憐は目を伏せるかのように俯き、そして意を決したように話し始める。


「……俺の親父、……『祝 楼我ろうが』。……お前も知ってるだろうが、GGのスーツを設計し、そして開発した……俺の祖父さ」


雷にとって知らない名前が出てきた。誰なのだと思うが、とりあえず憐の祖父=楼我という情報を頭に覚えさせておき、そして今作られている量産機はその楼我という男が作ったと判断する。


「……え?ってことは何?あいつらの使ってる機体=お前の親父が作った機体ってわけ?」


と確認のようにその一言を言うと、憐は持っていたスパナを床に叩き付け、今までにない剣幕で雷に掴みかかる。その言葉を聞いた雷は、どうやらのっぴきならない事情があるのだと判断した。


「違う!俺の親父の機体をあんなロマンの欠片もない機体と一緒にするんじゃぁ無い!」


しかしこの執着心、何かあると判断した雷は、逆に煽り倒すことでどういう事なのかを聞こうとする。ただ、加減を知らない為に煽りがかなりきつくなっていく。


「……何でそれにこだわるんだ?なぁ。使えない機体とくだらないロマンを追い求めて何がしたい?後何で祖父を親父って言ってんの?」


「……お前には分からないだろうがな。……俺の父親の方はクソだ。……あんなよくわからない、しかも弱い機体を高値で売りさばいてやがる!俺にはあんなものが親父の後継機だと言われるのが耐えられない!後アレを親父呼ばわりしたくねぇんだよ……!」


憐の一言は、かなり怒りが含まれていた。どうやら父親とは何らかの確執がある用であった。しかし今はそれを深く効かないことにした。今聞いてはこの話が別の方向に行ってしまう。そう判断したからであった。


「だからって誰も使えない物作ったら、それこそ同じだろうが」


これは煽りではなく本心からの一言。銃だってナイフだって、人が使えなければそれは意味をなさないのだ。当然スーツも同じ、使うことが出来なければ、それに意味はない。ただのガラクタなのである。


「……だからこそ俺は考えた、親父の機体を作る事で、俺の親父が凄かったんだって伝える為にな!」


そう言う彼の目には涙すら溜まっていた。もはや執念と言うか、命を投げうってもするべき事なのだろう。しかしそれは彼にとってはである。雷はそんな事を知らない。楼我とやらの機体がいくら凄くても、それが着れなければ意味は無いのだ。そして雷は遂に核心に迫る。


「……なぁ、正直……そう、正直さ、俺スーツに関しちゃよくわかってねぇんだが……それって高いんだよな?一機作るのにいくらかかるよ?」


そう質問をすると、憐は少しためらいながらも幾らかかるのかを答えていく。


「……数十万だ」


そう言った瞬間、雷はここで攻める時だと判断し、元々自分がやりたかったある事を出来ないかと考えていた。そう、GGの参加である。と言うか彼には今それしかないのである。つまりは逆に考えた、どうすれば参加できるのか、機体があってもスラム生まれの彼には参加をどうやってするのかも分からない。そこで憐をたきつける事で参加してやろうと考えたのであった。


「そこだ、お前は金があるのか?」


「……もう、ほとんどない。底をつきかけている」


やはりと言うか、彼の資金はほとんど底をつきかけていた。売れないわけではないのだが、どれもこれも安く買いたたかれてしまう、後作れて一着程度しかないという状況。ハッキリ言ってピンチである事は否めなかった。


「そうなったらもう親父もクソもねぇだろ、そこで終わりなんだよ」


「……」


遂に黙ってしまう憐。金がない事を自覚しているからであり、そしてこれ以上何も出来ないと理解してしまったからである。とここが好機と雷は更に話を続ける。


「そこでだ、俺はある事を聞いたぞ?確か、『一点物ザ・ワン』とか言う機体があるらしいじゃねぇか。……そんでもって、GGは大々的なスポーツだ!……つまり優勝すれば金になる」


GGは地区大会であろうが、勝てば賞金が出るし、観客から金を貰えるチャンスもあるのだ、つまり勝てば金になるのだ。しかし憐はまだ渋っている。勝つ見込みはないし、それに自分が作りたいのは親父の機体であり、自分の機体ではなかったのだ。彼は自分の機体など意味は無いと考えていたからであった。


「だが、俺は親父の機体を……」


「だから!親父の機体じゃあなくて、俺はお前の機体を着たいんだよ!あ、今のダジャレじゃないからね」


雷は一応だがあの機体を見て、もう少し調整すれば自分にも余裕で着ることが出来ると判断しており、それを使えば勝てると判断した故、彼を誘ったわけなのである。後最後のはダジャレではない。そして初めて自分の機体を着たいと言われた憐は、親父の言葉を思い出していた。今の今まで憐は自分の為ではなく、親父の為に機体を作ってきた。しかし今、雷は憐に対して自分を求めたのである。


「……フフッ……俺の機体か……ならしょうがねぇ!いいだろう!こういう契約だ、俺はお前の機体を作り!」


手を差し伸べる憐。


「俺はお前にその報酬として賞金を支払う!」


その手を掴み、自分の顔と同じくらいの高さまで案内する雷。


「……俺たちはコンビだ!今からな!」


二人は大声でそう言うと、拳をぶつけ合う。それは二人の契約が始まったという事、ひいては二人の下剋上が始まった事を示唆していた。


「よーし!なら早速設計図から作り始めるかぁ!今からわくわくするなぁ!」


そう言いながら彼らは設計図を作りにかかる。彼の体に合うように、そして今までにない自分の機体を作る為に。


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