一章『小規模大会編』

『天才二人の挑戦』

第4話『善悪のタガ』


スラムから逃げ出した雷であったが、ここで彼は自分が金を持っていない事実に遅れて気が付く。ちょっと頭を抱えそうになったが、仕事くらいは見つかるだろうと若干楽観的に考えると、街の大通りに行くのであった。


「……そういや俺金持ってねぇなぁ……どうすっか……」


とここで彼は三人組の男に絡まれている女性を発見する。スラムでは正直に言ってまだ人が多かったころは日常茶飯事で見てきたので何の感慨もなかったが、流石に街でも殺し合いが始まってしまうのかと考えてしまった。


「ちょっと!離してよ!止めてよ!」


「っと、何だ?」


近くで見てみようと考え、人混みの中に入っていく雷。そいつらはよくわからなかったが、とりあえず武器を持っている事だけは理解できた。街も物騒だなと考えている雷。女性は桃色の髪をしており、更に明らかに三人の事を拒絶しているのに、それを無視して三人は構ってくる。


「うわぁ……喧嘩だよ……しかも、あいつらだ」


あいつらって誰?と雷が思う暇もなく、女性への暴力が大きくなっていく。遂に蹴りまでお見舞いしてきたのである。周りで見ている奴らに向かって、一番偉そうな奴が話しかけてくる。


「お?やるかお前ら、あぁ?」


するとそこに一人のおっさんが出てくる。いわゆる気の弱そうなおっさんで、何で出て来たんだよと思うほどにはなよなよしい感じの男であった。そして三人の目の前に行くと、説教を始めようとした。


「そ、そう言う事は、や、やめなさい!」


「あぁ?黙ってろよおっさん!」


「ぐあっ!」


しかしおっさん、哀れにも一撃でノックダウン。顎に腹にとボコボコにされていく。そして一通りリンチが終わったのか、その辺に投げ捨てられるおっさん。そのズボンのポケットからは、一枚のコインが落ちてきたのであった。それはともかく女性は連れ去られそうになっていた。


「ほらとっとと来いよ!おらぁ!」


「うわぁ……何か凄いことになっちゃったぞ……お、百円見っけ。……アレに入れれば商品が出てくるんだったか……今までは殴ってたしなぁ……」


正直スラム生まれスラム育ちである彼は、倫理観が死んでいた。女性がどうなろうが構った時点で碌な目に合わないのは知っている。スラムでは毎日のように殺し合いが起きていて、その理由は大概何かに関わって死んだ奴だからである。そして三人の間を通るように自販機に向かおうとする雷。当然因縁を付けてくる三人。


「おぉ!?なんだこのガキ!邪魔すんのかぁ!?」


「何?邪魔なのはそっちだろ、どけよ」


そう言うと、高圧的な態度でこちらに迫ってくる三人。ナイフやらを片手に、雷に対して脅すような態度をとっていく。


「ハーッ!このガキ俺たちの事怒らせちゃいました!……ぶっ殺してやるよぉ!俺たち『ガンマ三兄弟』に逆らったらどうなるか教えてやるよぉ!」


「……何その名前」


正直に言ってダサイ名前だと思っていた彼であるが、そんな事はどうでもいいとガンマ三兄弟は襲い掛かってきた。一人はナイフを使い襲い掛かり、一人は銃を使って襲い掛かり、最後の一人は何か鉄っぽい奴を持って襲い掛かってきたのだ。


「ヒャッハー!」


「よっと」


ナイフによる攻撃をあっさりとよけ、無視してそのまま自動販売機に行こうとする。


「避けんなぁ!」


「ほいっと」


二人目の銃を持っていた奴の攻撃を避け、その銃を破壊することで二人目を制圧。そんで無視して行こうとするが、更に三人目がやってくる。


「ふざけんなこのガキ!とっととぶっ殺されろやぁ!」


「今俺がジュース買おうとしてるところ見えねぇのかぁ!?」


遂にキレた雷。ここまで邪魔されてはもう文句しか出ない。その鉄を素手で破壊すると、更に持っていた奴めがけて顎にパンチを放って気絶させる。そして百円入れた時、銃を持ってた奴がやってくる。


「うるせーッ!」


「あぎゃぁっ!?」


そいつの顔を掴み上げると、自分の欲しい商品の所のボタンをそいつで押すと、更に地面に放り投げた。それを見ていた一人目は、ナイフを片手に雷に襲い掛かってきた。


「兄者ぁ!この野郎!」


「えーっと取り出し口は……」


正直ナイフ使いの奴はそんな脅威でもなかったので、商品を取り出すために手を下げる。その時ナイフが彼の足に突き刺さってしまう。


「うぎゃぁ!?」


「っとここだな」


そしてそれを取り出すと同時に、そいつの顎を肘で叩き割るのであった。


「ほぎゃぁっ?!」


三人をサラッと倒した雷であったが、正直関係ないとそのまま進もうとする。しかしここで先程の彼女に話しかけられ、立ち止まる。


「……あの……」


「何?」


めちゃめちゃ不服そうに答える雷。彼はスラム生まれであるがゆえに他人と関わるのが苦手であった。とここで彼女はそんな彼の態度にもめげずに再度話しかける。


「……何で助けてくれたの?」


「え?……助けた気なんてないが……」


正直に言うと、彼ははっきり言って邪魔な三人をぶちのめしただけであり、彼女を救ったなどとは一切思っていなかったのであった。しかし彼女自体は助けられたという事実があるので、それのお礼をしたがっていた。


「いいから!何かお礼させて!」


「……そうだなぁ……じゃあ飯奢ってくれよ」


そう言うと彼らはファストフード店に向かう。ハンバーガーショップであった。彼はそこで初めて旨い料理を食べたのだ。もはや感動を覚えるほどの味。雷はそれを食うと、何度もそれを食べていく。


「旨ぇなぁ……」


とここで彼女の財布が軽くなっていっているのを見ていた。既に食い続けて五十八個、そもそもここに来る前にちょっと金を使いすぎたせいで、彼女のお財布事情は寂しいモノになっていた。


「……その……食べすぎじゃない?ちょっとお財布事情が……」


流石の雷も彼女の表情から何かを悟ったのか、ここまでにしておくことにした。正直まだ腹は膨れていないが、彼女が駄目だと言うのであればそれを否定することは出来ない。


「おぉそうか……だったらもうやめとくか……まだ腹一分目ってところだけど」


「これで!?まだ一分目なの!?」


五十八個も食ったのに、まだ腹が減っているという事に流石に驚く彼女。それもそうだろう。散々食ったはずであるのに、まだ腹が減っていると言うのだ。


「そうだが……まぁいいか」


「……えぇ……?」


スラムで育ってきた彼は、食い溜めをすることが出来るのである。最大一か月分。また水分に関しても同じで、たとえ泥水だろうが平気で啜って無事で生き延びれるのだ。病気にもならないよ。強いね。


「で、お前さんは何者?」


口を拭きながら彼女に話しかける雷。一応世話になったので、名前だけでも聞いておこうと思ったからである。彼女は唐突に名前を聞かれたので、ちょっと怖気ずくが、すぐに名前を言う。


「あぁ……私は『ネリン』。あなたは?」


「俺か?俺は雷。ま、これも縁って奴だな」


水を飲みながらそう言う雷であったが、ここで彼女は彼が腰に付けていたエレクトロのスーツについての話になる。


「そうなんだ……そう言えば気になってたんだけど、もしかしてGGの選手の一人だったりしない!?」


「……なんでそう考えた?」


そう彼が言うと、彼女は腰に付けているエレクトロを指さしてその理由を話していく。


「いやぁ……お恥ずかしながら私、GGとは関係なく、スーツを使った犯罪を取り締まる警察になりたくてですね……それなのに変な男たちに絡まれちゃうし……見ず知らずの人に助けられるし……後お財布空っぽだし」


彼女は自分の夢の話をしているが、何となく後半の部分は自分の事を刺しているのではないかと思った。それはどうでも良いので聞かなかったことにした。しかし雷はそのセリフに少し疑問を感じる。


「……あのスーツはGG以外にも使えるのか?」


「え?うん。一応そうだけど……そう言えばこれから用とかある?!」


彼女からの質問。雷は当然だがこれ以降何もない。故に何もないと答えるしかないのであった。実際に何もないのだから。


「い、いやぁ無いが……」


「じゃあちょっと行ってみようよ!GGの研修に!」


連れられるままに彼女と共に町の中心の場所に向かう。そこにはデカい建物が一つたっていた。それがGGのスーツの何やらかにやらを教える場所である事は一目……は出来ないだろうがまぁわかるだろう。


「……デカいなぁ」


「でしょー!私もここに来た事はあるんだけど……その時は身長が足りなくて駄目だったんだよね……でも今回は大丈夫!」


GGのスーツはどうやら着るのに慎重制限があるようであった。ちなみに雷は若干十五歳、それに対してネリンが十八歳であった。それを踏まえても、彼女より雷の方が身長高い。おおよそ彼の肩くらいの高さである。


「……俺より身長低いのに?」


「そう言う事じゃないよー!」


ぷんすこと怒る彼女であったが、それを無視して雷はその建物に入るのであった。


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