第3話『殺意のケジメ』


何とか一人生き延びた彼は、怒りも悲しみも抑えることはしなかった。ただひたすら怒り泣き、そしてそれが終わった時、彼はこれからどうするかを考えようとしていた。


「……これからどうする……!俺は……!」


と彼が考えていると、その部屋の中にある物を発見する。それは円柱状の物で、周りには様々な文様が書き記されており、そして上の部分にはスイッチが取り付けられていた。はっきり言ってそんな物は見たことがないと考えたのだが、それでもなぜか一度見たことがある用に思えた。


「……なんだこれ?どっかで……」


それは彼が以前に見たことがあり、そして昔憧れていた物であった。彼は、一度だけGGの試合を見たことがあり、その時にこれを使ってみたいと思うようになっていた。ただしそれは昔の事。それからは生きるのに精いっぱいだった。だからこそ、彼はそれを忘れようとしていた。


「そうだ……俺はこれを知っている!前に見たことがある!あのGG用のスーツ、量産機の一つ!『エレクトロ』だ!」


GGのスーツのうちの一つ、通称エレクトロ。とことんまで殺戮に特化した機体で、恐ろしいまでに残虐な機体。なぜこんな場所にあるんだと考えるが、それは今考えることではないと思い返すと、それを起動させようとした。


「……量産機は誰でも使えるんだよ……そうだ思い出したぞ……!……悪い皆。……俺はこいつらを許しておくわけにいかねぇんだよ!」


雷はそう言うと、配電盤を叩き壊し怒りと復讐の火を目に浮かべてエレクトロがどう動くのかを調べていたのであった。そしてゲートの中に入ってきたオネェは、スーツを着ている二人に不満と文句をぶつけていた。


「お前らってほんっとに使えないわね!えぇ!?あんなクソガキ一人殺せないとか仕事舐めてんのかお前ら!?」


「……しかし……彼は市民証を持っているんでしょう?だったらいつでも追えるのでは……」


ごもっともな正論。しかしオネェはそう言う事ではないと言い出す。どういうことなのかと言うと、要はアレが本物であるということであった。本物であると彼らは手出しができなくなるのだ。そう言う法があるから。それ故にオネェ共は自分が負けであるという事を理解していたのであった。


「いい!?アレを取られた時点で私達の負けなのよ!アレは本物なのよ!?偽物だったら今こんなにキレてないわよ!」


「……」


その一言に何も言えなくなるスーツ部下達であったが、それに何も言わないことをムカついたのか、更にキレるオネェ。


「……と言うか何なのこれ!ドアが閉まってるし暗いし!ふざけんじゃないわよあのクズ!」


「……そう言えば……その……これで死刑に出来ませんかね?」


とここで彼らはある事に気が付く。そう、今の雷は要するに不法侵入に部下の殺害、その上器物損壊をしまくった犯罪者であった。それであればこちらで裁くことが出来るという部下の考えであった。


「……そう言えばそうね。出来るじゃないの死刑に。……何よ!考える時間を返しなさいよ!」


明らかに理不尽に怒るオネェ。部下は渋々というようにその言葉を了承したのであった。


「……はい……了解しました」


「とりあえずあのクズは今制御室にいるわよ!内側からでも鍵が無ければ開かないのよこのドアは……だったらもう確定じゃないの!よしぶっ殺しに行くわよ!」


欠陥品では?と思うような構造の建物に、かなりブチ切れそうになるオネェだが、一旦それを休ませることで何とか普通の会話をしようと考える。


「出てきなさいクズ!今出てきたら最悪自殺で済ませてあげるわよ!」


「……」


もし雷が普通の状況だったとしても、その答えに答える気は無かったし、恐らく『同じじゃねぇかよ……』などと突っ込んでいただろう。しかし何の返事もない事に更にイライラするオネェ。ここで電気がまだ付かないのかと部下に当たり散らす。


「電気は!?」


「まだ復旧していないようです……」


「もういいわ!強行突破よ!どうせアイツはどうすることも出来ないんだから、とっとと入って撃ち殺せばいいじゃないの!」


怒りによって正しい判断が出来なくなった彼は、遂にそのドアを開けようとする。一応部下もちょっとは止めようとしたのだが、誰も彼を止めることが出来ずに、そのまま開けてしまう事となった。


「……」


「はーいスラムのクズ……鬼ごっこはここで終わりよぉ!」


と、スーツを着た奴が部屋の中に入ろうとした瞬間、雷はそのスーツの奴にエレクトロの武器の刀を斬り付けぶった切ろうとした。


「え?」


それからの光景は下の奴が教えてくれた。と言うのも、彼は元々一応戦士であった為にそれに気が付いてしまった。その時の光景を彼はこう説明する。


「いやぁ……その時の光景ですか?……恐ろしいですよアレは……いやまぁホントに。まず私達は下でいわゆる事務作業を行ってたわけなんですけどね、電気は消えるわ上から変な物音がするわでもう散々だったんですよ……はい」


男は下で色々なことをしていたが、あの停電した時に上に行こうとしたが、ドアもロックされてしまったので出れなくなってしまったわけであった。そして上から凄い物音がするので、気になって上を見てしまった訳であった。


「で、ですね。その後何なんだと上を見たわけなんですよ。はい、それで上を見てたわけなんですけど……その時、私の首が斬られるような感覚に襲われた訳なんですよ、はい。いやぁ……生きた心地がしなかったなぁあの時は……それでね、私もう一人の同僚に声をかけたわけなんですよ。『私の首は繋がっているか?』ってね」


彼はその時、首を切り落とされてしまったような感覚に襲われていた。当然だが斬られている訳が無いのだが、彼は自分の首を何度も何度も確認し、それでも自分の首が繋がっていないような恐怖を感じていた。


「まぁ繋がってたんですけど……多分あの場所にいた奴のほとんどがそれを見てたと思いますよ……あなたも体験したら、ちびっちゃいますよ。私はちびりました」


そう言い、インタビューを終える男。そのズボンは少し湿っていた。


「あ……あぁ……!?」


当然だが、それをまじかで食らってしまった彼らは、恐怖と絶望で動けなくなっていた。刀は根元から折れていて、スーツには傷一つ付いていなかった。だというのに雷は今の一瞬で死の一瞬を相手に与え、そして戦闘不能にしたのであった。そして一度も戦ったことのないオネェは、それに気が付かづに部下たちに文句を言い出す。


「どうしたのよ!さっさと撃ち殺しなさいよ!」


「あ……ジョン様……」


部下の一人がオネェの名前を言う。その目はとてつもない恐怖に怯えるように、そして何度も首を触りながら、自分の首がある事を確認するが、まるで首が無いような反応を繰り返すだけだった。


「何よ!その名前で呼ぶなって言ってるでしょうが!」


「ジョン様……私の首は……付いていますか?」


震える声でそう言う部下。何も知らないジョンはその疑問に対して、普通に話しかける。


「何言ってるの?ツイてるに決まってるじゃない!さっさと撃てっつってんのよ!」


そう言われて、銃を構えようとする部下であったが、それは出来なかった。それをしようとしても銃と腕を向けることが出来ないのだ。震える腕で自分の身を守るように頭を抱え、更に震える身を押さえつけるように叫ぶ。


「無理です……無理です!」


「……何よだらしないわね!所詮剣が折れただけじゃないの!どうせ経年劣化かスーツの耐久に耐えられなかったんでしょ!」


そして部下から銃を奪うと、ジョンは雷に向けて銃口を突きつける。雷はただそれを見ているだけであった。


「……」


「ふん。まぁいいわ……じゃあ死にな」


さいと言い終わる前に、彼の両足は斬られる。何があったんだと見て見ると、雷は今の一瞬で、刀の残った根元で足を斬り付けたのだ。両足が斬られ、そのまま胴体が床に叩き付けられてしまうジョン。ジョンは何が起こったのか分からないようであった。


「はぁ?」


「……よぉ、ジョン?」


名前は中で知ったとはいえ、名前を確認するようにジョンに対して話しかける雷。ジョンはパニックになって声を荒げるのであった。


「な……何をしたのよ!?」


「……お前はさぁ……俺の家族を殺したし、スラムの奴にもいっぱい酷いことをしたじゃない?……それを許して外に出るってのは……ちょっと俺が許せない」


そう言うと、彼はジョンに向かって歩き出す。ジョンは雷から逃げるようにして、這いつくばるようにして逃げ出した。


「……何が許さないよ!一応言っておくけどね!市民証を手にした時点で殺人をしたら刑務所行きだからね!えぇ?!その辺分かってるんでしょうね?!」


そう言い放つジョン。確かにそうである。実際雷もそれを分かっていたし、理解もしていた。だから最初から彼は、市民証を手に取ってなどいなかった。


「……分かってる。だから俺は市民証を手に取ってねぇんだよ」


「……はぁ?」


それはジョンからしてみれば理解できない一言であった。それもそうだろう。今の今まで自分の立場に甘んじて、弱いもの以外と戦ったことのない奴だから。雷はスラムにいたからこそ、彼自身の立場を知っていた。法はない。だがしかし、それ故に何をしようが誰にも咎められないのだ。


「なぁ……聞くが……俺に市民証が無けりゃぁ……お前に何をやってもいいんだろ?」


「……ふざけんな!そんなもんが通用するわけねぇだろうがぁ!」


雷はため息一つつくと、こいつは今までやってきた事を覚えているのかというように、しゃがんでジョンに話しかける。


「お前が今までやって来たことじゃねぇかよ」


図星という表情から、怒りの表情に変わると、遂に本性を現したのか叫びだす。


「私はいいんだよぉ!お前みたいなクズどもに何してもいいに決まってるだろうがよぉ!」


「……もう、何も言えねぇよ」


雷は呆れ果てるだけであった。とここで彼はある物を発見する。それはあのジョンとか言う奴が拷問に使うように作らせた物であり、昔スラムで公開処刑をしていた時に使っていた物であると理解する。


「これはお前が拷問目的で作った奴だな?……お前は何秒耐えれる?」


それはチェーンソーと呼ばれるものであり、片手で使え、しかも切れ味は人を斬ることに特化しているので鋭い。また、刃が肉に絡むように何層にも刃が絡まっている為に、拷問器具として一級品の物であった。雷はそれを見せつけるようにジョンの前に置く。ジョンはそれを見て、今まで自分がやってきた事を思い出していた。これで何人も殺してきたのだ、これがヤバいということくらいは理解している。それ故に彼は醜く命乞いを行う。


「やめろぉ!そんな事をしても何にもならないだろうが!えぇ!?そんなことより」


雷はそれを無視した。頭にチェーンソーを当てると、静かにそれを下に下げていった。肉と骨を砕く音、そして叫ぶ声のような物が施設に響く。この時雷が考えていたことは、親父や親友、更に子供達のことであった。今までこいつがやって来た事を少し思い出し、ちょっとだけ速度を上げた。


「……もう喋るな」


「オボオッ?!オボゲボボブゲェッ……」


そしてその場所には哀れなミンチがその場所に置いてあるだけになった。雷はそれを片目で見て、市民証を手に取る。


「……さて。これは貰っていくぞ」


仇も討ち、スラムから出ることが出来た雷は、これからの事で正直途方に暮れていたのであった。


「……腹が……減ったなぁ……」


とりあえず、今はこの食欲を満たすために飯を食いに行こうと考える雷だったのであった。



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