第2話『悲しみの先に』


子供達を撃ち殺された彼らは怒っていた。それもそうだろう。ゲームと称しながら、実際はただ殺したいだけだったのだから。怒りに任せ声を荒げる雷。


「お前らはクズだ!何も知らない子供を!お前らの下らねぇ都合で!」


するとオネェはあっけらかんとしたように彼に対する答えを喋っていく。


「そうだけど?それがどうしたっていうよのぉ?別に殺したところで問題ないでしょぉ?」


これには三人も唖然としていた。だがここで雷とその親友は、あのドアにそもそも鍵穴が無いとと、ドアが開いていないことを理解する。


「……そもそも奥のドア、鍵ねぇじゃねえかよ!何がしてぇんだお前はよぉ!?」


「ここにあるわよ?ほら、私のポケットにねぇ」


最初からこのオネェは、彼らを外に出す気は無かったのだ。三人はそれを見て、これからどうするかを考えていた。


「……冗談じゃねぇぞ……!」


「どうする……!」


とここで、親父はある物を服の裏から取り出す。それは黒くて四角い何かであった。それを地面に置くと、親父はポツリポツリと話し出す。


「……一つ、一つだけ出来ないこともない」


「何だと親父!?本当か?!」


「……あぁ。本当だ。だが……それをすれば……」


苦虫を嚙み潰したような顔をしている親父。相当な覚悟なのか、下唇は血まみれになり、手には大量の血が滲んでいた。そしてオネェはそれを聞いていたのか、彼らに向けて話しかける。


「へー……何をしたいのぉ?」


「お前ら、爆弾って知ってるかぁ?」


そう、つまり彼が取り出した四角い奴は爆弾である。雷はそれを見て、何をするのか考えてしまい、そして嫌な予感もひしひしと感じていた。だが今それを言っては何もかも駄目になる。それ故に彼は何も言わなかった。


「……爆弾?それがどうしたって言うのよぉ?」


「……前にある物を発見してなぁ……そう、お前らが発明した爆弾だよ」


親父が持ってきていたそれは、彼が一週間前に持ってきた物であり、このスラムに捨てられていた物であった。オネェはそれを見えると、まるで煽るように喋るのであった。


「……あぁ、そう言えばこの前捨てたっけ……そんなの覚えてる訳ないじゃなぁぃ」


「そうかもな。……だが、この爆弾でお前らの敵一人でもぶっ飛ばせれば、……少なくとも彼らの脱走の役に立つだろう。……くたばりやがれ!」


そう言うと、親父はその四角くて黒い物を持つと、彼らに向けて走り出した。一人が親父を撃とうとするが、それをオネェは止める。まるでそれを試すように。


「駄目だ親父!それはしちゃぁいけない!」


「ふーん。自爆特攻って訳ねぇ!」


「親父!」


スーツを着ている一人に抱き着く親父。オネェとスーツを着ている奴らはそれを見て、ヘラヘラ笑っていた。そして彼は遂にその黒四角の箱をスーツの男に当てると、壁に押さえつける。しかしここでオネェは彼らにとって残念な一言を告げる。


「残念だけどねぇ!爆弾程度でこのスーツに傷が付くわけないじゃないのぉ!まぁ可哀想だから受けてあげなさぁい」


「うおおおおっ!」


「親父……!」


それを言われても、親父は一切退かなかった。オネェは更に煽るように耳を塞ぎ、目を瞑る。他のスーツの奴らも同じであった。しかし一向に爆発も爆破音もしないことに違和感を覚え、すぐに目と耳を開ける。


「……?何も起きないじゃないのぉ」


「……そりゃそうだろ。……私は最初から爆弾など持っていない」


と親父が言うと、オネェは何を言っているんだというように話す。そう、親父が持っていた物は爆弾では無くただの四角くて黒いゴミであった。当然体を掴まれていたスーツの男も困惑し、とりあえず銃を親父に向ける。


「はぁ!?じゃあ誰が持ってるのよぉ!?」


とここで彼らは足音を聞く。そう、雷とその親友は、今の目を瞑った一瞬を使って、後ろに走っていたのである。更に爆弾を持っていたのは雷。雷はそれを親友に投げつけると、親友はそれを受け取って、爆弾をゲートの窓ガラス目掛けて投擲する。


「相棒!」


「おうよ!」


「後ろかぁ!」


とオネェがそう言い、銃を撃たせようとするが、親父が掴んでいたスーツの男の銃口をスーツの男目掛けて変えてやると、スーツの男はそれに気が付くことなく自分の頭を撃ちぬいてしまう。


「おっと、そうはさせんのよ」


さっきまでのお返しと言わんばかりに煽り倒す親父だが、当然だが親父は他の二人に撃たれていた。それでも彼はまだ立ち上がる。その光景にイライラし始めるオネェ。遂に口も悪くなる。


「クズどもが……!どいつもこいつもふざけやがって!あのジジイをぶっ殺せ!」


「悪いね。……最初から私は死ぬ気で来ているんだよ」


ここで親父は自分の服に付けてあった物を取り出す。もう騙されないと言うように奴らは銃を乱射しそれを破壊してしまう。その中から出てきた物は、昔彼らが捨てていた毒ガスであると理解してしまう。


「毒ガスです!」


「マスクが曇って見えません!ダメです!」


親父は銃と毒ガスで死んだのだが、まだ二人が残っている、しかも今は風上。二人には毒ガスが通じず、逆にこちらに毒ガスが来るようになっていた。オネェは自分の口にガスマスクを付けると、その二人から銃を無理やり奪い取ると、適当に乱射し始めた。そこには二人がいないというのに。


「使えないわねお前ら!貸せ!適当に撃てば当たるでしょ!」


彼らはそんな事を知らない。当然だが見えないからだ。とここで雷はこの壁がぬめぬめしている事を悟る。この壁は恐らく登れない。そう理解する二人。とは言え既に市民証がある部屋は開いているのだ。どうにかして登らなければ誰も助からない。


「……この壁……!ダメだ這いあがれねぇ!」


「……窓ガラスは割れた。……俺とお前は五メートルしか飛べない。……俺の肩に乗れ」


それは要するに、彼ら二人が飛んだところで届かないが、雷の親友が飛び、そして雷が彼の肩の上で飛べば届くということであった。しかし逆に言えば親友はどうやっても助からないのである。当然親友である雷はそれを出来ないというように首を振りながら否定する。


「……何言ってんだよ!お前……!」


「いいから載せろ!……このクソッたれの場所から出るんだろ!……だったら俺じゃなく、お前の方がいい。……俺はもう、駄目らしいんだ」


親友はそう言うと、自分の右腹を見せる。その腹には弾丸が撃ち込まれていたのである。最初の射撃の時に、避け切れなかった弾丸が彼の腹に命中していた。今の今まで何とか耐え続けていたが、もはや血は制限なく流れ出ていくのでどうしようもないという事だけが彼らに理解できた。


「……こんな事あるかよ……!」


怒る雷。だが逆に親友は冷静であった。晴れ晴れしい笑顔を浮かべると、雷に向けて彼は今までの事を詫びるかのように、悲しむかのように、そして喜ぶかのように話しかける。


「雷。……今までお前と過ごしてきた時は、楽しい時間だったさ。……もう大丈夫だ。何もいらない。……お前が生きるべきだ。……俺らの分まで!……生き延びてくれよ……!」


そして二人は飛んだ。親友は五メートル、そして雷も五メートル。合わせて十メートルである。雷は割れた窓の中に入ると、地面に落ちていく親友を見ていた。毒ガスが晴れ、親友の姿がはっきりと見えたオネェたちは、親友に向かって銃弾を浴びせまくる。


「うわあああっ!」


叫ぶ雷。だが叫んでいる暇はない。歯を食いしばり何とか声を押さえつけ、彼は市民証を確認する。確かにそれは自分の物であった。


「煙が晴れたぞ!」


「撃ち殺せ!」


自分の親友が目の前で殺された。それは事実であるとだけが理解できた。親父も少し遠くの場所で毒に襲われて死んでいた。二人の大切な人を失ってしまった彼は、床を殴り怒りを抑えられない様子であった。


「……クソッ……!」


しかしそれでも、彼は前に進むしかない。その部屋が管理室だと理解した彼は、その直後に全てのドアを閉め、電気を消してこれからどうするかを考えるのであった。


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