ガレオ・ガレーラ~劣等上等!~
常闇の霊夜
序章『スラム編』
『その少年はスラムで育った』
第1話『スラムにて』
大体80年後の近未来。
そんなある日の話。二人はスラム近くの街を走っていた。なぜ走っているのかと言うと、彼らは食料を盗んで逃げているからである。追う警官は銃を持っており、何度か発砲していた物の、それらは全て避けられていた。二人はかなり足が速いようで、颯爽と警察を撒こうとする。更に二手に分かれたりして、警察の奴らを完全に手玉に取っていた。
「ほい相棒!」
「よし来た!」
だがスラムには四方に壁が存在しており、スラムから街に行くまで十メートル、街からスラムに行くまで五メートルと言ったところである。当然普通であれば登るのにロープとか、梯子とかが必要だということくらいは分かるだろう、だがそう言った物は彼らには無い。
「そこの二人止まれぇ!止まれと言っている!」
「ヘッ!誰が止まるかよ!」
二人は壁を目にすると、その場から飛びあがった。
「うおーッ……っと!何だあいつら!」
「少なくとも五メートルくらいはあるんだぞこの壁は!」
「悪いね!俺ら五メートル程度じゃ全然止まらないんだわ!」
何と彼らは五メートルもの壁を、一回のジャンプで超えると、スラムの中に逃げていく。そして警察が来れない場所まで行くと、二人はスラムに住んでいる子供たちに背負ってきた食い物を与えるのであった。
「お前ら!飯持ってきてやったぜ!」
「わーい!」
そんな中、二人組の一人である黄色い髪をしていた方が、座り込んでいる初老の人間に対して食べ物を与えようとしていた。パンと肉を与えようとしたのであるが、初老の方はそれを拒むと、黄色の髪の奴に対して話しかける。
「……親父、ほら食べ物だよ」
「……『
雷と呼ばれた少年は、その一言を聞くと少し目を伏せ、明るく振舞おうとする。だが親父と呼ばれた男は、彼がここ数日何も食べていないという事を見抜く。
「いや俺はあの中でいっぱいいっぱい食ってきたさ!」
「……そう言うには歯に何もついていないようだが?」
「……やっぱ親父にはバレちまうか……」
ため息をつきながら、ゴミで出来たソファもどきに座り込み親父と話し合う。
「何日食ってない?」
「一週間くらいかな……でもそんなに腹は減ってねぇんだよな……」
と完全にはぐらかそうとした彼の口に、無理矢理パンと肉が詰め込まれる。親父が彼の口に突っ込ませたのである。
「良いから食え。食わねば戦えぬぞ」
「……そうだな親父」
当然だがスラムでそんなことが起こっていると知らない奴らもいた。少年は無邪気に家の窓から見えるデカい壁が何なのかを、父親に対して尋ねる。
「ねぇお父さん、あの壁って何?
「あれかい?アレはスラムっていう治安の悪い場所から、人が来ないようにしているんだよ」
「へー……そこには人がいるの?」
少年のその質問に、癇癪を起したように叫びながら少年に話しかける父親。少年はその剣幕に驚いていた。少年の父親はそんなに怒りっぽいわけではない。だからここまでキレるのは初めて見たからであった。
「いるわけないだろ!あそこはゴミの山なんだから!もしいたとしても人権はないよそんな奴らに」
「へー……可哀そう」
そうつぶやく少年。そしてスラムでは雷に対して一人の子供が彼に対してある事を聞いていた。それはこのスラムから出ようとしないのかという疑問。彼は十メートルの壁を素手でよじ登り、普通に街に行くことが出来るのだからという疑問でもあった。
「なぁ兄ちゃん!外に行こうとか考えてねぇのか?」
「あ?……ねぇよ。……出れるってんなら十の昔に出てるさ……」
彼にはスラムから出られない理由があった。それはただ一つ、彼には市民証が無いのだ。それが無ければ犯罪者呼ばわりされ、簡単に捕まってしまう。一応スラムには法という物は一切無いので、ここにさえいれば何をしても犯罪にはならないのであった。もちろんそんなことをする気は無いが。
「おやまぁ!汚い奴らが何を食っているのでしょうか?」
とここで騒ぎ立てるようにオネェの女がやってきていた。そいつはいわゆる管理人のような物をさせられていた。しかしハッキリ言ってこのオネェ、クズである。スラムの住民をカス以下の人間としか思っておらず、かなり酷いことをしてきたのだった。そんな彼は後ろにGGで使うスーツを着ている奴らを携えており、彼らは銃などを持っていた。
「飯だが?」
「そんな物はスラムに無いはずでしょぉ?盗んだ物ってことよぉ!」
勝手にそう決めようとするオネェだが、彼らはまったく気にしない。証拠があってもスラムの中では手出しをすれば反撃されるという事を知っているのだから。一応殴り合いではこちらの方が強い。
「へー……だったら何か?俺らをとっ捕まえて牢にでも入れんのかぁ?」
「いいえ。今日はあなた達にチャンスを与えよぅと思っているのよぉ?」
「……チャンス?」
オネェはそう言うと、彼らを壁の前に連れていく。それは彼らが五分近くかけて登った壁である。当然今は厳重体制にあるのか、壁から銃やら武器やらが剥き出しになっていた。
「はーい、これが見えるでしょぉ?」
「壁だな。それ以外に何があるんだ?」
「アッそっちじゃなくてこっちよぉん」
壁を指さしていたことに気が付いたオネェは、指の指している場所を変え、一つの窓がある場所に指をさす。そこにはとある紙があった。よくよく見て見ると、それは彼らの市民証である事が分かった。当然、彼らもそれには驚いた。
「……そりゃぁ……俺らの市民証って訳か」
「そうよぉ?今からあなた達はぁ私のゲームをクリアすればこれがもらえるのよぉ?」
その言葉に無邪気に喜ぶ子供たち。ただ雷ら年上の奴らは、それを当然のように訝し気に見ていた。間違ってもあいつらがこんな事をする訳が無いと理解していたので、嘘だと思っていた。
「ホントか!?やったな兄ちゃん!俺たち外に出られるんだぜ!」
「……どう思うよ親友?」
「……正直信用ならない。お前が俺らを罠にかけて、市民証も偽物ってこともありうる」
そう言う彼らに、オネェはある物を見せる。それは一人の子供の市民証であった。それが本物である事を証明する為に、オネェはその市民証をある物にかざす。それは証明機械であり、それが反応したことで彼の持っている市民証が本物であると証明して見せた。
「ふん、市民証だけは本物よ。こうでもしないとあなた達やる訳無いでしょぉ?」
当然それを見た子供たちが雷に話しかける。とことん無邪気に、まるで自分が余裕でゲームをクリアできると言うように。
「なぁやろうぜ!これで外に出られるんだ!」
「……私も参加しよう。出られるチャンスを無駄にしたくはない」
子供たちが騒いでいると、初老の男がそれに賛同するように参加しようとする。それを聞いていたオネェは腰をくねくねと奇妙に動かしながら、他の人たちが参加するのかを聞こうとする。
「……他の奴らはどうするのぉ?」
「俺はやるさ。なぁ、後はお前だけだぜ雷」
雷の親友はそう言い、雷に参加するのかどうかを聞いていた。ちなみに彼らの名前だが、かなり適当な物で、基本的に漢字一文字で書けるものばかりであった。
「……俺だけが何もしないって訳にはいかねぇ、……それに俺より小さい奴らが参加するってんなら……俺はそれを守る為に参加しよう」
彼は自分が外に出れなくとも、誰かを守る為にこのゲームとやらに参加しようとしていた。それを聞いたオネェは更に腰のくねくね速度を増し、気味の悪い動きをし続けていた。と彼らが騒いでいると、ここで手を叩いて、彼らを黙らせる。
「それじゃあここにいる全員が参加って訳ねぇ!じゃあルールを説明するわねぇ!」
「……」
オネェが説明したルールは全部で五つ。一つは死なずにゲームの奥に行けば勝ち。二つは死んだらその時点で市民証は使えなくなる。三つは時間制限が無いという事。四つはこちらが始めと言ったら始まる事。そして五つ目は、こちらは本気で殺しに行く。という感じであった。
「以上よぉ?何か質問でもあるぅ?」
「……じゃあ一つだけ。つまり……俺らはお前らの後ろにある管理センターに入って、市民証を手に入れれば勝ちって訳だな?」
その質問ににっこりと笑顔で話しかけるオネェ。本当に気味が悪かった。そして他の奴らに質問が無いのかを聞くと、誰も手を上げなかった。そしてオネェは遂にスタートの合図を出そうとしていた。
「そう言う事ぉ。他に質問は無いのねぇ?じゃあ……」
「……ちょっと待てよ……何だこの違和感は……?」
雷は、ふと気になることがあった。考えてみればなぜわざわざGGのスーツを着てる奴らがこんな場所に来ているのだろうか。護衛用にしては重装備過ぎる。あまりにもだ。まるで……獲物を狩る為に来ているような。
「始めましょうかぁ!」
スーツを着てる奴らが一斉に銃を構えた瞬間、雷は皆に避難をするように叫ぶ。近くにいた子供を抱きかかえ、彼は咄嗟に避難する。
「全員瓦礫に避難しろ!」
瓦礫に避難出来たのは、初老の男と雷の親友と、雷。そして何とか助け出した少年だった。だが彼は自分の妹が撃たれたのを確認すると、思わず瓦礫から頭を出してしまう。
「水!」
「顔を出すんじゃ」
その瞬間、少年の頭は撃ちぬかれる。雷の目の前で、その少年は死んでいった。頭を撃ちぬかれ一撃で死んだ。雷は助けられなかったことに悲しみつつも、地面を殴って怒るのであった。
「……畜生!」
「ほーら!早く出てこないと撃ち殺しちゃうわよぉ?!」
怒りの矛先は当然だが、目の前にいるオネェに対して向けられる。ふざけるなと。四、五歳も行っていない子供を、こいつらは平然と撃ち殺しやがったのだ。雷達は彼らに向けて、怒りの言葉を叫ぶ。
「まだ子供なんだぞ!お前!」
「それがどうしたって言うのよぉ?こんなゴミみたいな場所にいる奴らなんて、ゴミと同じなのよぉ」
「……クズめ!」
心の底から吐き捨てるように、雷はオネェに対してその言葉を突きつける。今の状況では、そんな言葉が役に立たないと知っているのに。
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