第6話、タッグ戦

 タッグ戦の日がやってきた。

 待ち合わせ喫茶店に向かうと、ハルトが優雅に珈琲を飲んで待っていた。


「ハルトさん。お待たせしました。」


「おー。エレン待っとったで。今日は絶対優勝したるぞ! 新しい相棒も手に入ったことやしな。」


 意気込むハルトに軽く笑いながら俺も準備万端ですと言い、打ち合わせを始める。

 タッグバトルは互いに1体ずつ魔物を出して戦うらしい。

 そして各自の手持ちの魔物は3体で、相方を含めた計6体の魔物が戦闘不能になると敗北になるようだ。

 それとトーナメント会場には特別な結界が施されていて、もしそこで魔物が死んでしまっても蘇生機能があるみたいだ。


「ハルトさん。タッグバトル楽しそうですね! 早く戦いたいです。」


 ハルトの話を聞いていると俺の魔物がSランクテイマーに、どこまで通用するか楽しみで仕方がなくなった。

 打ち合わせが終わって、互いの魔物を再確認する為にギルドの地下室を借りる事にした。

 ハルトが最初に魔物を見せてくれるらしく、3体まとめて召喚してくれた。


『ハッシュ、ダーク、ラッグ。リリース。』


 全て初めて見た魔物だったので、ハルトが軽く紹介してくれた。

 魔物はこんな感じだった。


 ハッシュ、ファイヤーバード「ランクC+」

 ダーク、ヒューマンゴースト「ランクB−」

 ラッグ、サンドワーム「ランクC+」


「結構強そうですね。他のテイマーがどれくらいかわかりませんけど、上位狙えそうじゃないですか?」


「せやろ? でもエレンに言われると皮肉にしか聞こえへんな。」


 ハルトは苦笑しながら魔物を魔石に戻していく。

 俺もハルトに魔物を見せる為にレジェンドウルフ以外の2体を召喚していく。


『ドラドラ、プラチナ。リリース。』


 天竜とマジェライトゴーレムが召喚される。

 2匹共10メートル以上あるから中々壮観だ。

 

「は……?」


 ハルトは驚きで言葉が出て来なくなってる。

 声は聞こえるだろうから、その状態のハルトに紹介していった。


「天竜とマジェライトゴーレムです。ランクは AとB+です。」


 紹介が終わったが、ハルトは中々現実に戻って来ない。


『ドラドラ、プラチナ。シール。』


 魔物を戻すとハルトは現実に戻って来れたのか、声を荒げて喋ってきた。


「レジェンドウルフ以外は普通の魔物やったやん!?」


「いやー。色々ありまして。」


「んなこと言うても、どんだけ修羅場を潜ったら2体の魔物が殺されて、そんな魔物と契約する事が出来るんや……。」


「あー……。まぁ色々ありまして……。」


 俺は進化の事は黙っておきたかったから、適当に流す事にした。


「それよりハルトさん。作戦とかってあります?」


 話をすり替えてタッグ戦について作戦を聞いてみると、ハルトは頭を抱えていた。


「それだけの魔物がおれば、ランキング1から3位の奴らと戦うまでは適当にやっても勝てるやろ……。」


 おっと。作戦は適当で決まった。

 解せぬ。



 魔物を確認して会場にハルトと共に乗り込むと、受付嬢にハルトが説明していた。

 タッグバトルのペアを登録しているようだ。

 ハルトの登録が終わるまで暇だったのでウロチョロしていると、可憐な女性を見かけた。

 彼女もSランクテイマーなのか考えているとハルトから声を掛けられる。


「なんやエレン。ランカの方をずっと見つめとって。まだまだ子供だと思っとったけどもうお年頃かいな。」


 俺は顔を赤くしながら違うと否定してハルトの背中を叩く。

 そしてランカと言う人物について聞いてみた。


「ランカは18歳と言う若さで、ランキング3位に入った天才テイマーやで。契約している魔物のランクはワイにもわからんけどな。」

 

 ハルトの言葉に少し驚くが、今回倒さなきゃならない3強の1角だと思うとワクワクが止まらなくなった。

 ウズウズしてる俺を見て、ハルトは頼もしい奴だと言いながら会場の方に歩いて行く。

 俺もハルトの後ろを歩いて会場に向かって行った。

 会場に入ると観客が満席で、凄まじい熱気が舞台にまで届く。


「流石Sランクのタッグ戦ですね。始まってもないのに凄い熱気ですよ。」


「アホォ。対戦が始まったらこんなもんやないで。気後れしないように慣れとけや。」


 ハルトの言葉通り開会式の言葉が始まると、熱気は更に高まって行く。

 そして舞台に1人の男性が登り始めると観客は静まり返った。

 年齢は50歳くらいだろうか。

 

「今年もタッグ戦が無事に開始されて嬉しく思う。余を楽しませてくれた者には褒美も用意しておるからの。最高のテイマーによる最高の戦いを見せてくれ。」


「「うおおおおおおおおおおおお!!」」


 開式の言葉が終わると、観客と会場に居るテイマー達が声を荒げて熱気は会場全てを包み込んだ。

 そんな中、俺はヒソヒソ声でハルトに開式の言葉を言った人は誰なのか聞くと、ウルガルド王国の王様だったらしい。

 流石に滞在している王様くらい知ってると思っていたハルトだったが、俺の無知具合に頭を抱えていた。

 因みに名前はアレク・サンドラと言うらしい。



 熱気に包まれた開会式が終わり、抽選が始まった。

 ランキング上位の4名は各ブロックのシードで、他のテイマー達はクジによって分けられる。

 ハルトはCブロックの2番を引いていた。


「ハルトさん!2戦目でシード枠と当たるじゃないですか。くじ運悪いんですか!?」


「しゃーないやろ……。せやけどCブロックなら相手はランカや。ランキング3位ならまだマシな方やで。」


 ハルトは前向きに考えて話してきた。

 確かにそうなのだが、2戦目に当たるのは避けたかった。

 俺はため息を吐いて切り替える。


「まぁいつかは当たる相手ですし、優勝目指してるから良いですけどね。」


 俺は目を細めて嫌味っぽく言うと、ハルトはそんな事が言える余裕があるなら楽勝だなと嫌味を返してきた。


 大会は順調に進み、俺達の番がやってくる。


「さぁ! Cブロック一回戦です!

 ランキング15位。ハルト選手!

 ランキング25位。バロン選手の入場です!」


 実況に呼ばれて舞台まで歩いて行く。

 そして4人が一斉に魔物を召喚。


 『『リリース!』』


 舞台に4体の魔物が現れる。

 俺が最初に出したのは天竜だった。

 ハルトはサンドワーム。

 相手の魔物は見た事がないが、多分Cランクくらいだろう。

 天竜を見た相手の顔が驚きに染まっている。

 観客の方からもざわざわと声が聞こえてくる。


「おい。あれって天竜じゃねーか?」


「えっ、嘘でしょ? 図鑑でしか見た事ないけど、契約出来る魔物じゃないわよね……?」


 ハルトは観客の声にニヤリと笑い、俺に声を掛けてくる。


「エレン! 観客の度肝抜いてやろうやないか。」


「そうですね。一撃で終わらせましょう。」


 【スキル3:ストームブレス】


 スキルをタッチすると天竜は息を大きく吸って、敵陣にブレスを放った。

 ブレスは凄まじい威力で敵の2体を一瞬にして倒してしまった。


「「は?」」


 観客と相手は豆鉄砲を喰らったかのようになったが、すぐに観客から悲鳴に近い歓声が飛んでくる。


「うおおおおおおぉぉ!! すげええええぇぇ!!」


「今のなに!? 凄すぎて声が出なかったよ!!」


「本物の天竜じゃんか!!」


 観客を味方に付けた俺たちは、その後に出てくる4体を完封で倒して初戦の幕は降りた。

 控室に戻るとランカがハルトに話しかけてきた。


「ふーん。凄い相方を見つけてきたじゃない。だからって私に勝てるとは思わないでよねっ!」


「なんやランカ。勝てる気がしなくなってきて、チョッカイ出しにきたんか?」


「ふ、ふん! 天竜なら私だって数年前に倒した事あるんだからっ!」


 ランカは威嚇のような強みを見せて奥の控室に歩いて行った。


「なんやねん。マジでビビってそうやんけ。」


「ハルトさん油断してると足元掬われますよ。」


 暫く2人で他愛もない話をしてると歓声が聞こえてきて、全ブロックの1回戦が終了した。

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