第7話、タッグ戦「2」

 会場の歓声が静まり返った頃、2回戦を始めるアナウンスが聞こえてきた。

 俺とハルトは会場の隅に座りる。

 Aランクのシード枠とBランクのシード枠の魔物を見学する事にしたのだ。


「Aブロック2回戦を開始します!

 現在最強のテイマー。ランキング1位、ガストン・サンドラ選手。

 ランキング13位、スピア選手の入場です!」


 凄まじい歓声が舞台に響く。

 多分、今日いちばんの歓声だろう。


「ハルトさん。サンドラって……。」


「あぁ。そう言えば言うてへんな。王様の息子やで。」



(まじか。序列1位って王様の息子だったのかよ。)


 ハルトに言いたいことはあったが、バトルが始まりそうだったから心の中に留める。

 両者が魔物を出すと、そこには1体だけ凄まじいオーラを放ってる白銀の騎士が居た。


「ハルトさん?

 あの魔物のランクわかります?」


「わからんな。ただ異次元の強さってのは知っとるで。」


 ハルトの言葉が参考にならなかったので、バトルを見て分析する事にした。

 ガストンの魔物は敵の魔物を次々と葬っていく。

 それを見てランクA以上だと言う事を確信した。


(あの強さはレジェンドウルフに匹敵しないか?戦ってないからわからないけど、優勝が怪しくなってきたぞ。)


 ガストン以外のバトルは接戦で、手に汗握る戦いになっていた。

 バトルは順調に進んでいき、Aブロックも終わりBブロックの対戦が始まろうとしていた。


「来たで。序列2位のレオナルドや。」


「あれが序列2位ですか。フードを被ってて素顔が見えませんよ。」


「レオナルドは毎度フードを被ってるんや。素顔を見た奴は誰もおらんって話やで。」


「へー……。えっ、マナ!?マナだよな!?」


 何とレオナルドの相方はアイスホークで別れたはずのマナだった。

 俺はマナに声を掛けるが無反応だった。


「なんや?知り合いか?」


「はい……。一緒の村で育った幼馴染です。1ヶ月以上前にアイスホークに置いて来て、俺だけウルガルドに来たんですよ。」


「アホちゃう?それはエレンが悪いで。女の子を置き去りにしたらあかんやん。」


 無視されてるのはハルトの言う通り、マナが怒ってるせいだと思った。

 俺はマナの機嫌を更に損ねないように、声を掛けるのをやめてバトルの応援をする。


「Bブロック2回戦を開始します!

 ランキング2位のレオナルド選手!

 ランキング8位のカスケード選手の入場です!」


「おおおぉぉ!待ってました!」


 序列1位のガストン同様に、レオナルドが出ても凄い歓声が鳴り響く。

 両方の選手が魔物を召喚すると、マナの魔物ランクが高そうな事に気づく。


(えっ。マナにあんな魔物と契約する魔力はないはずなのに……。)

 

 レオナルドの出した魔物より、マナの出した魔物の方が強そうな気配を感じる。

 マナは人形のように感情を持たず、相手の魔物を蹂躙していった。

 歓声が響き圧倒的な試合が終わる。

 実況者がすかさずアナウンスを開始。


「圧倒的勝利を収めたのはレオナルドペアだ!

 3回戦が始まるまで控室にお願いします。」


 アナウンスが終わると、レオナルドが実況者からマイクを奪い喋り出した。


「くっくっく……。諸君!私は偉大なる魔王様の配下である。これより人類を攻め滅ぼす事を宣戦しよう。私はこれより魔王城に戻るが、手始めに複数の災厄級魔物をこの王国に向かわせている。そろそろ来ると思うから楽しみに待っていろ。」


 レオナルドが発言すると、後ろの空間から歪みが発生してマナと2人で歪みの中に入って行く。

 何が起こったかわからない観客やテイマー達が静まり返っていると、王様が会場に降りてきてマイクを掴む。


「皆の者。2000年前の悲劇を知っておるか?」


 誰も知らないのか会場は静まり続ける。


「知らんよな。王家にしか伝えられてない秘蔵の話じゃしの……。昔は魔族とやらが居て、魔物は魔族にしか操れなかったのだよ。その魔族に支配されていた人類に、1人の救世主が現れて人類を救ってくれた。」


 王様の話は段々とエスカレートしていく。


「救世主は契約魔術がない時代で3匹の魔物を従えていたのじゃ。どうやってかは王家にも伝わってないからわからないのじゃが、その3匹の魔物と救世主が魔族を根絶やしにして、今の平和な世の中が生まれたのじゃ。」


 どうやら昔は魔族が居て、人類は魔族に支配されいたようだ。


「だが魔族は生き延びていた。そして、先程魔族から人類に宣戦布告をされた。どこで身を隠していたのか知らぬが、魔族は人類に復讐を望んでいるようだ。」


 観客達は静かに王様の演説に耳を傾けている。


「確かに救世主はもう居ない。それでも人類は魔族と戦える術を身につけた!2000年前の悲劇を繰り返してはならぬ!皆の者。力を合わせて魔族を撃退しようぞ!」


 観客とテイマーの士気が高まる。


「「うおおぉぉぉ!」」


 テイマー達は声を荒げて、我先にと外壁に向けて走り出す。

 俺は駆け出すテイマー達を見ながら、独り言を漏らした。


「マナ……。」


 ハルトはそんな俺を見て、何も言わずに空を見上げる。

 暫くしてハルトが口を開いた。


「エレン。今日はホンマに助かったで。ワイが災厄級魔物を倒したるから、宿に戻ってゆっくり休むんやで。」


 無言で下を向いてる俺に、ハルトは心配するなとばかりに笑みを浮かべて、外壁の方に走って行く。

 俺は戦う気になれず、宿屋に戻ってマナの事を思い浮かべる。


(俺があの時マナを置いて行かなければ、マナが魔族側に行く事は無かったのに……。)


 マナが魔族側に行ったのは俺のせいだと、考えれば考えるほど鬱になっていく。

 考え込んでいると災厄級が現れたのか、外壁の方が騒がしくなってきた。

 宿屋にまで聞こえてくる戦闘の音も、雑音にしか感じなく、ベットに潜って布団にくるまる。


(うるさいな。今は静かにしてくれ!)


 布団の中に顔ごと入れていると、次第に戦闘の音が止んでいく。

 音が全く聞こえなくなった。

 静寂から徐々に、歓喜の声が聞こえるようになる。

 災厄級を倒したようだが、俺は心の中でどうでも良いと思っていた。

 暫く布団にくるまっていると、ドアを叩く音が聞こえてくる。

 布団から出たくなかったが仕方なく開けてみると、そこにはハルトが立っていた。


「災厄級魔物は倒してきたで。エレン……。大丈夫なんか?」


「まだ心の整理が付いていないので、帰ってください。」


 俺は帰るように施したが、ハルトは帰るそぶりを見せずにそのまま腰を下ろした。

 そして、本心を打ち明けるまでは帰らないと言って、その場に居座った。


 無言の時間が流れていき、流石に気まずくなった俺は本心を打ち明ける事にした。

 暫く本心を語っていると、段々とマナの事で頭が一杯になっていき、ハルトに弱みをぶつける。


「ハルトさん。俺もうダメかも。何度思い返しても、マナが魔族側に行ったのは俺のせいだ……。」


 マナの事で弱みをぶつけると、ハルトは長いため息を吐いてから俺の顔を殴ってきた。


「!?」


 俺はジンジンする頬を摩り、ハルトを呆然と見つめる。


「マナちゃんの事を1人で考え込むなや!

 そんなん12才の子供が1人で考え込む事ちゃうやろ!」


 ハルトは本気で怒ってくれていた。

 ハルトの気持ちが伝わり、俺の中にある何かが吹っ切れた。


「そうだね……。ハルトさんの言う通りだよ。もう決めた。絶対マナを魔族側から連れ戻してやる!」


「そやな。それとなエレン。1人で問題を抱えるなや……。ワイなら何時でも悩みを聞いたる!重すぎる悩みならワイも一緒に背負ったる!」


 本音で語り合ったお陰でハルトとの距離が縮まり、自然と敬語無しで話すようになっていた。


「ハルトさんと話して気持ちが楽になったよ。ありがと。」



 お礼を言うと、ハルトは無言で手を差し伸べてきた。

 俺はハルトの手を掴み、これからもよろしくと言う。


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