第4話、トーナメント「2」

 ざわめきが落ち着き、火力テストは俺のダントツ1位で終了した。

 

 審査員が火力テストの順位を発表して、それが終わると耐久テストの説明が施される。

 耐久テストは鋼鉄のマシーンが魔力弾やら、接近戦などをして来るみたいだ。

 そして3分間は避けたり受け止めたりして、倒れずに意識を保っていればクリアになるらしい。

 それとマシーンの火力は1から1000まで設定を変えられるみたいで、Fランクトーナメントの過去最大数値の成功者が650らしい。

 出場者には3回挑戦する権利があり、初回は結構ギリギリのラインを攻める人が多いようだ。


(さっき目立ちすぎたから軽く流したいけど、プラチナの耐久力は見てみたいな。)


 俺は失敗しても良いから1000を選ぶ事に決めた。

 他の挑戦者を見ていると、600を挑戦する強者が現れた。

 最初はいい感じに回避をしていたのだが、残り1分を切るとマシーンは更に加速して、魔物に乱撃を叩き込む。

 マシーンの強烈な乱撃に耐えきれず、魔物は地面に伏してしまった。

 挑戦者は慌てて魔物を魔石に戻して、先程とは違う魔物を出す。

 失敗した事に悔しそうな顔をして、2回目の挑戦を400でやると言った。

 

(3回挑戦出来ると言っても、初回に失敗しちゃうと魔物は意識が無くて、2回目からは違う魔物で挑戦しなきゃいけないのか。)


 しばらく他の挑戦者を観察していると、俺の出番が回ってきた。

 俺の出番になると周りがざわつき始める。

 

「さっきのドラゴンを出した奴か。」


「次は何を出すんだ?」


 周囲のざわめきを感じながらプラチナを召喚する。


「プラチナ、リリース。」


 プラチナを召喚すると、ざわめきは更に増して行く。

 

「今度は見たこともない魔物かよ。」


「なんだ、あの魔物は……。」


 ざわめきを無視してマシンの数値を1000でお願いする。

 すると、周囲のざわめきが急に静かになり始めた。

 単純に設定の最大値である1000を、クリア出来るか気になり出したようだ。

 ゴクリと息を飲む者も出てきた時、設定されたマシーンが動き始める。

 そしていきなりマシーンがプラチナに魔力弾を放って来たのだった。

 プラチナは避けるそぶりを見せず、魔力弾が直撃した。


「ドカーーン!」


 物凄い音がして、今までとは桁違いの爆風が辺りに吹き荒れる。

 あまりの威力に心配してプラチナの方を見つめるが、それは杞憂だった。

 煙が消えて中の様子が見えるようになると、何事も無かったかのようにプラチナが佇んでいたのである。


「あの威力で無傷かよ。」


「何なんだよ。あの魔物は。」


 観客は独り言のようにぶつぶつ喋り出す。

 俺もあの威力は流石にヤバいと感じたので内心ホッとする。

 その後も激しい攻撃を回避する事無く、全て無傷で受け止めていく。


(プラチナの防御力を舐めていたな……。殆どダメージを受けてないじゃん。)


 そして3分が経ち、プラチナはその場から1歩も動かされる事がなく、耐久テストをクリアするのであった。

 すると冒険者協会理事のガラン・オルフェに声を掛けられた。


「君が火力テストを規格外の結果で終わらせたエレンかな?」


「はい。俺がエレンですけど、そんなに規格外だったんですか?」


「あぁ、Fトーナメント史上初の快挙だな。それと今の耐久テストも規格外だ……。」


 ガランの言葉に少し動揺したものの、トーナメントの方が気になり、俺の目線はガランよりもトーナメントの方を向いている。

 そんな俺に気づいたのか、ガランが口を開く。


「エレン。君はFランクのレベルじゃない。俺の権限でFからCランクに上げる事に決めた。だから今回のトーナメントにはもう参加しなくて良い。」


 最初は何を言われたのか頭に入ってこなかった。


「はい……?今なんて言いました?」


「だから君はもうCランクの冒険者にする事を決めた。」


 唐突に昇格宣言をされて頭の中を整理する。

 そしてガランの言葉に了承すると、今すぐ冒険者ギルドに来るように促された。

 ガランと一緒に会場を後にして、冒険者ギルドに向かって歩く。

 冒険者ギルドに着くと、ガランはすぐにギルド長を呼んだ。

 

「これはこれはガラン・オルフェ様。バスターでございます。直々に来られたとなると、緊急クエストが発令されたのでしょうか?」


 ウルガルド王国のギルド長をしている、バスターと名乗る50歳くらいの男性がそう言うと、ガランは首を横に振って口を開く。


「緊急クエストではない。ここに居るエレンをFランクからCランクに上げてもらう為に来たのだ。」


「FからCですと!?」


 バスターは驚いたようだが、訳ありだと察して悩んだ挙句に了承する。

 バスターの様子から、ランクの飛び級はあまり無い事なのかもしれない。


「悪いなバスター。先程のトーナメント予選で、火力と耐久テストを過去最大の数値……それも他に類を見ない数値を叩き出したのでな。」


「それは興味深いですな。それでガラン・オルフェ様は、そこの少年にCランク並みの力量があると踏んだのですね。」


「いや、本音を言えばBからAレベルだと思っている。だが、あまり事例のない飛び級をやり過ぎるのを躊躇ってな。」


「ふむふむ。確かにそれでは他の冒険者に示しが付きませぬな。」


 ガランとバスターは互いの意見を言い合い、結論が出たのかギルドカードをFからCランクに更新する。

 更新が終わるとガランとバスターから、俺の魔物を少し見せて欲しいと言われたので見せる事にした。

 ドラドラは大き過ぎるから、レッドとプラチナだけと言って召喚する。


「レッド、プラチナ。リリース。」


 2匹が出て来ると、ガランとバスターは興味深く見つめる。

 レッドは普通のウルフなので、そこまで興味を持たれなかったが、プラチナを見る目は全く違った。


「エレン。この魔物はどこで手に入れた?」


「ここの近くの森に出てきたので、普通に契約しました。」


 ガランは俺の回答に神妙な顔つきで考え始める。

 その間にバスターにも質問をされた。


「見た事のない魔物じゃが……。少年よ、この魔物のランクはわかるのかい?」


 俺はプラチナのランクを答えると、ガランとバスターの顔が渋くなる。

 次第にガランとバスターは、この場に俺が居ないかのように2人で話し始めた。


「Cランクの魔物で耐久テストの1000を無傷でクリアしたと言うのは、にわかに信じられませぬな。」


「確かC+ランクの魔物が650を出したのがFランクトーナメントの最大数値だよな。」


 2人は渋い顔のままプラチナを見つめ続けた。

 レベル上げをしたかったので、これから用事があると言い、2人の話し合いを中断させてギルドを撤退する。

 ギルドを出て、少し歩くと悲鳴が聞こえた。

 何事かと思いギルドに戻ると、そこには怪我をして倒れ込む冒険者を目撃する。

 周りに事情を聞いてみると、近くの森で見たことのない魔物に、契約している魔物を全滅させられて命かながら逃げ帰ってきたらしい。

 ガランとバスターもその場に駆けつけ、ギルド長の部屋で詳しい話を聞いている最中みたいだ。

 俺も何が起きたのか気になったので、話し合いが終わるまで待つ事にした。

 30分程待つと、ギルド長の部屋が勢いよく開けられガランが宣言したのだった。


「これよりギルドに緊急クエストを発令する。森の中で見かけたと言う魔物は、第2級厄災に認定する。」


 ギルド内がざわつき、ガランの言葉に息を飲み込む。


「まだ魔物の詳細がわからんので第2級災厄だが、被害次第で第1級災厄や、大災厄に変わるものだと思ってくれ。なんせ逃げてきた冒険者はBランクだったからな。」


 ガランはそう言い、災厄レベルの表を掲示板に貼り付けた。

 それを見た冒険者のざわめきは更に上がる。



 《第2級災厄》

・町が1つ滅ぶ可能性あり。


 《第1災厄》

・国が1つ滅ぶ可能性あり。


 《大災厄》

・世界滅亡の可能性あり。




 俺はガランの持ってきた表の災厄レベルを確認して緊張を露わにする。

 ガランは他の支部にも報告をしに行くと言って、ギルドを出ていく。

 ギルド内が一気にざわめきを増して行く。

 落ち着きのないギルド内に、ガランと入れ違いで1人の男性が入ってきた。

 派手な赤い髪をツンツンにセットしていて、年齢は20歳くらいだろうか。

 顔立ちは整っていて、細身で身長も高い。

 間違いなくイケメンの部類だろう。

 そんな女性に困ったことの無さそうな男が、ギルド内のざわめきを指摘する。


「この騒ぎはなんやねん。頭がキンキンするから騒ぐなや。」


 赤髪の男性が喋ると、ざわめきが静まり全員振り返る。

 静まり返った中で、1人の冒険者が目を大きく開けて口を開く。


「はっ、ハルトさん!?

 ランキング15位のハルトさんが来てくれたぞ!」


 何と、この派手な男はランキングに乗っているテイマーだった。


「緊急クエストが出たから来てくれたんですか?」


「緊急クエストってなんや?」


 冒険者はハルトに先程の件を説明すると、ハルトがニヤリと笑う。

 そして、受付嬢に討伐してくると言ってギルドを出て行った。

 それを見ていた冒険者達は、ハルトが負けるはずないと、先程の緊張した顔つきが嘘のように消ていく。

 そんな信頼をされているハルトの魔物を見てみたいと思い、俺はハルトの後を付ける事にした。

 しかし、途中でハルトの姿を見失って気が付いたら森の前まで来てしまっていた。


「覚悟を決めて森の中に入るしかないな。ドラドラ、レッド、プラチナ。リバース。」


 俺は最大限の警戒態勢を取り、森の中に進んでいく。

 因みに今の3体のレベルはこうなっている。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族:ウルフ  「レッド」

LV:19/20

ランク:E

スキル:1、ひっかく

    2、かみつき

気高きプライドを持ち、風のような速さで地を馳ける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族:ドラゴン亜種  「ドラドラ」

LV:15/40

ランク:C

スキル:1、火炎の息

    2、アイアンクロー

    3、????



大地の覇者。攻撃力、防御力、体力がずば抜けて高い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


種族:ストーンタンク(新種)  「プラチナ」

LV:15/40

ランク:C

スキル:1、身代わり

    2、ストーンブレイク


硬い外皮に覆われ、素顔を見たものは居ない。この世に1匹しか居ない魔物。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 レッドがもう進化しそうだなと思い、見当たらないハルトを探すのを諦めてレベル上げをする事に決めた。

 森の中に第2級災厄が居る事で、警戒しながら魔物を倒して行く。

 すると5匹目の魔物を倒した所で、レッドのレベルが20になった。


「よし!進化出来るぞ!」


 俺はレッドの進化文字をタップする。

 1つ目がレジェンドウルフAA『最終進化』

 2つ目がジェットウルフD+

 と書いてあるので、詳細を見てみる。


《レジェンドウルフ:伝説のウルフ。人々の言い伝えでは500年間戦い続け、生き抜いたウルフなど。地域によっては、石像を作り神のようにお供物あげる所などもある。その強さは誰も見たことがないので不明である。》


《ジェットウルフ:極限まで速さに特化したウルフ。本気で動くと残像が見える。》



(うおおおおお。レジェンドウルフってなに!?しかも最終進化って書いてあるし……。てかA Aランクって上がりすぎだろ。)


 俺は最終進化をして即戦力を取るか、まだ進化の可能性を秘めたジェットウルフにするか悩んだ。

 そして悩んでもどっちにするか選べなく、俺は進化を後回しにしてハルトを探す事にしたのだった。



 森の中をうろついて1時間くらい経っただろうか。

 森の奥から凄まじい音が聞こえ、そこに向かって走り出す。

 音がした方向に行くと、見失ったハルトを見つけ、何かと戦っているのがわかった。

 ハルトが3匹の魔物を出して居るのだろうか、敵対している魔物を含め、4体とも俺が見たこともない魔物だった。

 敵対している魔物はライオンのような顔で体は恐竜のように大きく、尻尾には蛇が付いてる。

 俗に言うキマイラだろうか。

 俺は邪魔をしないように茂みに体を隠し、戦いを見守る。


「なんやねんコイツ。ワイの3体同時攻撃でほぼ無傷やないかい……。」


 ハルトの声が聞こえ、先程の凄まじい音はハルトの3体同時攻撃なのだと理解した。

 キマイラは攻撃された事に怒ったのか、ハルトの魔物1体に突進して爪を大きく上げて攻撃してきた。


「ギャオオオォ。」


 ハルトの魔物は回避行動を取っていたが、避けきれずに爪で切り裂かれる。

 切り裂かれた魔物は光の粒子になり、魔石から名前が消えていった。

 

「一撃で倒されたやと!?

 なんやねん。この魔物は……。」


 一撃で倒されたハルトが、弱音を吐いた所で茂みから体を出して、ドラドラとプラチナを召喚する。


「ハルトさん。助太刀します。」


「あかん!誰だか知らんが敵う相手ちゃうわ。ワイが引きつけとくから、はよ逃げぇ!」


 俺はハルトの声を無視してドラドラとプラチナに攻撃命令をする。

 だがキマイラは微動だにせずに、ドラドラとプラチナの攻撃を受け止められた。


(なんて硬さだ。さすが災害レベル2の魔物なだけはあるな……。」


 悠長に考えているとキマイラが爪を振り上げてドラドラに攻撃仕掛けてきた。

 俺は即座にプラチナの画面からスキルをタッチする。


【スキル1、身代わり】


 プラチナがドラドラの前に瞬間移動をして爪を弾き返す。

 だがプラチナもそれなりにダメージを負ったのか、外皮に傷が付いてフラフラしている。


(やばいな。もう迷ってる暇はなさそうだ。レジェンドウルフに進化させよう。)


 そう思って俺はウルフを召喚するのと同時にハルトに呼びかけた。


「ハルトさん!ほんの少しで良いんで引きつけて下さい!」


「何考えてるかわからんけど、最初から言うてるやないかい。ワイが引きつけるから逃げろって。」


 ハルトは苦笑いをしながら嫌味を言いって引き受けてくれた。

 俺はその隙にウルフの進化先をタッチするのだった。

 そうレジェンドウルフを……。

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