彼女と学校とトラブルと・第二章
彼の家からの初めて、な少女の話。
彼の家からの初めて、な少女の話。
「んっ、んん……っ」
ちゅんちゅんと雀の鳴き声が窓の外から聞こえ、ジュウジュウという焼ける音と香ばしい匂いが漂い、鼻をくすぐります。
その匂いに揺さぶられるようにわたしは無意識に口から声を漏らし、身動ぎをすると頬をざらざらとした生温かな感触が這いました。
「なん、ですかぁ……?」
寝惚けながら呟いたわたしの声に反応するように、頬を舐めるその感触は再び感じられ……今度は一回だけではなく、ペロペロと何回も舐めるようにしてきます。
いったい何の感触か、そう思いながらぼんやりとしたまま目を開けるとつぶらな瞳が見えました。
少しくすんだ銀色の毛並みに青色の瞳をした愛らしい子猫がわたしを見て、もう一度頬を舐めてきます。
「ミャア! ミャ、ミャ、ミャ……」
「…………あぁ、ぷらたでしたかぁ……。おひゃよう、ごじゃいみゃす……すぅ……」
「ミャア、ミャア!」
お布団が気持ちいいため、わたしは再び夢の中へと沈んでいこうとするとプラタはまるで起きろと言うようにわたしの頬を舐めます。
いったいどうしたのでしょうか……?
そんなことを思っているとカラリという音が聞こえました。
「プラター、化さんは起きたか?」
「ミャアー、ミャアー……」
男性の声が聞こえ、一瞬誰だと思いましたが……もう少し眠っていたいと思うわたしは気にしません。
それに、寝惚けてても……くるまでおくられて…………あれぇ?
「にゃにか、わしゅれて……」
「おーい、化さん。起きろー、起きてメシ喰わないと遅刻するぞー」
軽く肩を揺すられる感覚。その感覚に段々と眠りかけていた意識が起き始めます。
遅刻? ごはん……。そう思いながらゆっくりと目を開けると真樹さんが居ました。
「まきひゃん……?」
「よかった。目が覚めてきたか? だったら早く着替えるか顔を洗って――ってぇ!?」
「じゃぁ~、きがえましゅ~……」
真樹さんに言われたので、わたしはぼんやりしながらパジャマとして着ていた洗濯されて箪笥の中に眠っていた彼のシャツのボタンを外し始めました。
すると真樹さんから素っ頓狂な声が上がり、どうしたのかと思いながら前を見ると、わたしの肩に手をおいた真樹さんが震えていました。
いったいどうしたのでしょうか~?
そう思いながら、こてんと首を傾げているわたしへと真樹さんは絞り出すように声を出します。
「ば、けるさん……み、みえる。みえちゃう……!」
「みえ~…………――っっ!?」
ゆっくりと下を見ると、真樹さんに掴まれた肩の先……つまりは両腕はシャツのボタンに触れて第三ボタンまで外していました。
……え、あの、まって、ください? わたし、いま……まきさんのまえで、ぬごうとしていまし……た?
ようやくあたまが追い付き始めた瞬間、恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じ体が強張るのを感じました。
「え、あ、そ、ちょ!? す、すす、すみません、真樹さん! すす、すぐに着替えましゅっ!!」
「あっ、急に立ち上がったら――――~~~~っ!!」
「ぅえ……?」
すぐに着替えて準備を整えようと慌てて立ち上がった瞬間、真樹さんの反応が遅れ……いえ、わたしもボタンを半分ほど外していたこともあったでしょうね。
すとん、と立ち上がると同時に彼がわたしの肩に乗せていた手によってシャツは脱げてしまいました。
顔を真っ赤にする彼といったい何が起きたのかを理解できないでいるわたし。
けれど、少し遅れてわたしが彼の前で裸(に近いパンツ一枚という恰好)を晒していることに気づき、声にならない悲鳴が口の中から出ました。
「~~~~~~~~~~っっ!!!!?? !?!??!?!?!?!?!?」
「す、すす、すまないっ! ワザとじゃな――」
慌てて真樹さんが弁明をするように叫びますが、無意識なのか何時の間にかわたしの手は真樹さんの顔目掛けて平手打ちをしていました。
パシンと大きな音を立てると同時に裸を見られたという恥ずかしさで顔が赤くなっていたと思います……。
そして平手打ちをした真樹さんを追い出すように部屋から出すと、わたしは慌てて下着を付け直し、枕元に畳んでいた制服へと着替えます。
漂ってくる洗剤の……いい香り。久しぶりに制服から感じる清潔な香りにホッと安堵していましたが、プラタの鳴き声にハッとして動き出しました。
というよりも、真樹さんへと謝罪を行わなければいけません。考えてみたら、わたしが寝惚けていたのが悪いのですからね……。
「そ、その、真樹さん……。お、おはよう、ございます……」
真樹さんを追い出した後に閉めた襖を恐る恐る開けると、真樹さんは静かにテーブルの前の椅子に座っていました。
ですがその雰囲気は何処か重く、やっぱり怒らせてしまったかと思いながら……彼の元へと近づきます。
「あの、真樹さ――」
「……着替え、終わったのか?」
「は、はい……」
「じゃあ、メシにしよう。昨日の通り、学校へは途中で別れるってことでいいよな?」
真樹さんはわたしへとそう淡々と告げますが、一切こちらを見てきません。
昨日は大丈夫だったから安心していたのに、また繰り返してしまうだなんて……。
真樹さんを怒らせてしまうのも無理はありません。そう思いながらわたしは気落ちしながら椅子へと座ると……静かに朝食をとり始めます。
足元ではプラタが時折、心配そうに視線をこちらへと向けながら昨日ホームセンターで購入した猫用の猫缶を食べています。
ちなみにわたしは真樹さんが作ったご飯を食べています……。
少し硬めに炊かれたご飯、豆腐とねぎのお味噌汁、半熟の目玉焼きにハム……ハムエッグですね。それらは簡単ながらも手がかかっており、10分以内で作れるものではないのは分かります。
自分だけでなく、わたしの分も作ってくれたのに……それなのにわたしは……。
自分が行ってしまった行為に猛省しながら、わたしはご飯を食べていると真樹さんが時計を見たのか首を動かしました。
「……げ、そろそろ急がないと!」
「え?」
慌て始めた真樹さんと同じように時計を見ると、7時を20分ほど回っていました。
いったい何に慌てて……あ。
その瞬間、わたしは彼に昨日言われたことを思い出しました。少なくとも朝は7時半には出ないと学校に遅れるという事を。
「っ! い、急ぎますっ!」
彼の言葉に急いでわたしは食事をやめて立ち上がろうとします。
ですが、それを真樹さんが手で制しました。
「いや、あまり急がなくても良いから、化さんは食べてくれ」
「で、でも……」
「とにかく、ちゃんと食べて軽く身支度を整えてくれれば良いから」
「……わかりました」
怒っている。そう思いながら怒られてるように感じつつわたしは従い、しっかりと食事をとりました。
そして顔を洗い、軽く髪を整えてカバンを取ります。時計を見ると……7時40分。
「あの、支度……終わりました」
「わかった。それじゃあ、外に出るように」
真樹さんの言葉に靴を履き、わたしは外へと出ます。そう言えばプラタは……そう思っていると締められようとしていた扉からスルリと体を滑らせるようにして外へと出てきました。
「ミャア」
わたし達へとひと鳴きすると、プラタはわたし達の後に続くように器用に階段を降り始めていき下へと降りていきます。そしてわたし達を見てから大家さんの家の方へと入っていくのが見えました。
大丈夫なのだろうかと思うわたしですが、大家のお婆さんも怒りはしないと信じておくことにします。
もしかすると真樹さんがお婆さんにお願いをしていたかも知れませんし……。
そう思いながらプラタを見送りつつアパート前の道路まで出ると、真樹さんが驚くべき行動に移りました。
「さてと――」
「っ!? ま、まま、真樹……さん?」
「暴れないように、とりあえずは学校の近くまではこれで行くから――あ、顔が見られると困るだろうから俺にギュッとしがみつくようにしてくれたらいい」
淡々と彼はそう言いますが、わたしは穏やかではありません。
何故なら、真樹さんはわたしを抱き上げたのですから。それも、映画などでお姫様がされるようなお姫様抱っこというものを。
突然の行動に驚き、固まるわたしでしたが……そんなことを考える暇なんて無くなりました。
「それじゃあ、行くぞ」
「――――っ!!」
グッと腕に力がこもりわたしを放さないというのを感じた瞬間、勢いよく彼は道路を走り出しました。
走り出した彼から離れる為に暴れたり、彼にしがみつく力が弱かったら途中で落ちる。
それを理解し、わたしは彼の背中へと腕を回してギュッと力強く抱き着くようにしがみつきます。
そうして、しがみついたわたしを抱えたまま真樹さんは力強く、けれど素早い速度で学校への道を駆け抜けていきました。
……幸いにも、この様子を他の生徒に見られることはなかったようで……いえ、数名ほどは見られていたみたいですが、真樹さんが抱きかかえているのがわたしだとは分からなかったようです。
ですが、真樹さんに新しい噂が立ってしまったようでした。
学校の女子を
それを生徒会室で知った時、わたしは申し訳ない気持ちでいっぱいになりましたが……彼の噂だけを聞いて勝手に毛嫌いをする生徒会役員の後輩達に何も言えないので、表情は変えずにわたしは心の中で彼に対して謝罪を行っていました。
…………帰ったら、真樹さんに謝りましょう。
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