さらに買い物を行うこととなった少女の話
さらに買い物を行うこととなった少女の話
30分ほど真樹さんと共にスーパーの中を回って買い物を続け、色んなものを沢山購入しました。
それらを真樹さんは持ってきていた袋へと入れていき、時折わたしへと指示を出してロール状になっているビニール袋を取って、中へと入れます。
こうすると汁が零れそうなものや、潰れやすい物が潰れた場合に周りに飛び散らないようにするのだそうです。
重い物や硬い物は下にして、潰れそうな物や柔らかい物は上にする。それが大事だそうで、十分に気を付けながら彼は袋へと荷物を入れていきました。
最終的に袋を2つパンパンにし終えてから、それらをカートの上へと乗せました。
わたしも持とうと手伝ったのですが……、重すぎます。それを真樹さんは軽々と持ち上げたので、力持ちなのでしょうね……。
そう思いながらカートを引く真樹さんの後について行き、先ほどこちらへと向かった辺りまで移動をするのだろうと思っていました。ですが……。
「あの、真樹さん? まだ帰らないのですか?」
「ああ、化さんと子猫に必要な物をついでに買っていこうと思ってさ」
「えっ!? そ、そんな……ただでさえ住まわせてもらうというのに……」
当たり前、そんな風に真樹さんはわたしにそう言ったので、申しわけないと思いながら要らないと口にしようとします。ですが、それを言い終わる前に真樹さんが手を前へと突き出してきました。
すごく大きくて、ゴツゴツとした手のひらです。
「気にするな……と言っても気にするだろうけど、出来れば買わせてくれ。歯ブラシとか色々必要だろ? 一緒の歯ブラシを使うってわけにもいかないし」
「え……あ、そ、そう……ですね」
真樹さんの言葉でわたしは歯磨きのことを思い出します。というか昨日の夜は疲れていた為、いえその前の公園生活からまともに磨いていなかったはずです……。
こ、口臭とか大丈夫でしょうか。真樹さん、臭いって思ってたりしてませんよね?
そう思いながらハラハラとし始めますが、彼は気にしていないといった風です。……ほっ、良かったです。
安心しているわたしを他所に真樹さんは何を買うかと考えつつ、指を折っています。
呟くように歯ブラシ、コップ、ご飯やお味噌汁を飲むためのお茶碗、お茶を飲むためのカップ、スリッパの単語が出て、それに続いて首輪、おトイレ、缶詰なども聞こえてきます。
子猫のために必要な物も考えているようですね。
そう思っていると真樹さんがこちらを向きました。
「化さん。とりあえず、必要な物を購入しよう。俺だと分からないものもあったら、構わずに入れてほしい」
「わ、わかりました」
そう真樹さんへと返事を返しながら、彼が言っていた物以外でわたしが必要になる物を考えます。……たぶん、無い? ……あ、ありました。
無いかな、と思っていたわたしですが男性には必要が無くても女性には必要な物があることに気づきました。……真樹さんに言うのは恥ずかしいのでこっそり入れさせてもらいます。
わたしは決心して、カートを引く真樹さんと共にホームセンターへと入りました。
ホームセンターの中はスーパーとは違った意味で広く、見慣れない物が沢山置いてありました。
店内にはスーパーと同じようにメロディが流れていますが、スーパーの物とは違いお店のテーマソングといったものですね。
そう思いながら周囲を見渡していると、真樹さんは再び買い物かごをカートの上に乗せると歩き出します。それに気づき、わたしは後に続き歩いて行き……真樹さんが呟いていた物が置かれている場所を回って商品をかごに入れていきます。
その度に彼はわたしに尋ね、わたしは彼に尋ね返したり返事をしていました。
「化さん、どの歯ブラシが良い?」
「えっと……どれが良いのでしょう?」
「奥歯まで行けるタイプとか、歯垢除去できるタイプもあるな。あ、ちなみに俺はスタンダードのこれを使っている」
「じゃ、じゃあ、それを……」
「化さん、歯磨き用のコップの色に希望はある?」
「えっと……じゃあ、この色でお願いします」
「灰色か。わかった」
「化さん、ご飯茶碗で好きな物があったりするか?」
「……あ、猫ちゃん。可愛いですね。そ、その、じゃあ……これをお願いします」
「化さんって、猫が好きなのか?」
「えと、どう……なのでしょう? でも、猫ちゃんは可愛いですよね」
「……わかる」
「化さん――――」
そうして色々と購入する物をかごの中へと入れていきました。……途中、生理用品を入れさせてもらうと中に入ったそれに気づいた真樹さんが少し顔を赤くしたのが見え、ポツリと「あ、ああ、そう……だったな。気づかなかった」と呟いていました。
その言葉に、わたしも恥ずかしくなり……顔が熱くなるのを感じました。
こうしてある程度、わたしが必要な物をかごの中に入れると……今度は子猫のための道具を真樹さんは真剣に見始めます。
その隣で、わたしも真剣に見ていました。
「アルミ製のエサ入れが良いか……? いや、でもプラスチックの方が」
「陶器も良いかも知れませんよね……。ガラス製なんてものもあるのですか……」
ひとつひとつ子猫のためのエサ入れを手に取りながら、わたしと真樹さんは呟きながら見ます。重さ、大きさ、深さも真剣に見つつ吟味していきます。
これは生徒会での大事なお仕事並みに重要な事です。だって、猫ちゃんがご飯を食べたり水を飲んだりするための物なのですから!
「お、お客様? 何か、お探し……ですよね?」
そんなわたし達の様子にビクビクとしながら周囲を歩いていたであろう店員さんが話しかけてきます。その言葉にわたしと真樹さんはそろって口にします。
「「子猫用の道具が欲しいんです」」
「ひっ、すみませ――え、子猫……ですか?」
わたし達の気迫に怯えたのか店員さんはビクッとしましたが、すぐにきょとんとした表情を向けて訪ねてきました。
その問いかけに頷くと、わたしへと恐る恐る話しかけます。……あの、何で真樹さんを見ないのですか? というか、真樹さんがチラッと見た瞬間にビクッと怯えているようにも見えますし……。
「……俺は少し離れて見てるから、子猫用の道具を選んでくれ」
そう言って真樹さんはわたしから離れ、少し距離を取ります。すると店員さんはホッとした様子を見せましたが、その様子にわたしは少し悲しくなりました。
見た目で判断なんてせずに、中身を見てほしい……。だって、真樹さんは良い人なのですから。そうわたしは心の中で思いましたが、きっと目の前の店員さんには届くことはないでしょう。
心の中で残念に思いながら、わたしは店員さんが紹介する商品を聞きますが……真樹さんと選んでいたほうが楽しいと思いました。
それでもかわいい猫ちゃんのために、わたしは店員さんの説明を聞き……猫ちゃんが使う道具を選んでいきます。
店員さんには気づかれないように真樹さんにこれは如何かという確認は取りつつ、満足する物が選ばれていき……首輪を選ぶ辺りで問題に気づきました。
「お客様。子猫用の首輪を購入するのでしたら、こちらの首輪に取り付けるチャームも買うことをお勧めしますよ」
「チャームですか? それはどのような物でしょう?」
「はい、こちら商品のサンプルとなりますが、このように1円玉サイズのプレートに子猫の名前と連絡先が刻まれていて、猫ちゃんが迷子になった際にこの連絡先へと連絡をしてもらえたりするから便利ですよ!」
「迷子ですか……」
うちの子猫は思った以上に賢いので迷子になる可能性は低いと思います。ですが、あったほうが良いですよね……それにきっと、可愛いですよね。
そう思いながら真樹さんを見ると話しを聞いていたようで、頷くのが見えました。
「わかりました。それでは作ってもらえませんか?」
「ありがとうございます! こちらは追加オプションとして、チャーム内部に小型のGPSが搭載されている物もありますが、どうしますか?」
「えっと……、お願いします」
「わかりました。それでそちらの猫の名前は何でしょうか?」
「「あ……」」
店員さんの言葉で、わたしと真樹さんはようやく気付きました。
子猫に名前を付けていなかったということを。
その様子に名前を決めていないということを理解したのか店員さんは紙を持ってきて差し出してきます。
「こちらにお客様の名前と住所、それと電話番号と猫ちゃんの名前と品種、それと色などを書いていただいてお持ちいただければ手続きは出来ます」
「なるほど、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。それとお客様の猫はどちらで購入されたのですか?」
「えっと……、実は公園で拾いまして」
紙を受け取りながら店員さんへと子猫を拾ったことを口にすると、店員さんはこちらを見てきました。
どうしたのでしょうか?
そう思っていると、店員さんが心配……というか、大丈夫なのかという風に尋ねてきます。
「あの、その猫は……本当に捨て猫でしょうか? 誰かに飼われていた猫という可能性は……」
「え……。それは、その……」
店員さんの言葉でようやくわたしはその考えに至りました。あの子が誰かに飼われているのかも知れないという……。
どうなのか困っていると、真樹さんが近づき店員さんへと話しかけてきました。
「それに関しては問題ない。周辺からも捨て猫という認識もあったし、SNSでも迷い猫情報を調べてみたけれどそれらしき投稿は見られなかった」
「ひっ!? そ、そそ、そう……なのですか?」
「ああ」
「で、では、ダニやノミなどの検査は動物病院で診てもらってはいますか?」
「いや、その考えは無かった……。ありがとうございます」
真樹さんに怯えながら店員さんが訪ねると、真樹さんはハッとして店員さんへと素直に頭を下げました。
その様子に店員さんは驚いたような、ポカンとしたような表情を浮かべましたが……すぐにハッとして、いえいえと頭を下げ返しました。
「それじゃあ、子猫の名前を決めてからもう一度チャームを作ってもらうようにしてもらいます。ありがとうございました」
そう言って、真樹さんは歩き出し……それに気づいたわたしは彼の後を追いかけて歩き出しました。
……その際、対応をしていた店員さんの口からポツリと「あの人、怖そうだったのによく見ると…………」という呟きが聞こえました。
店員さんの様子に真樹さんへの印象が良くなったと思いつつも、胸の奥でモヤモヤとしたものを感じてしまいましたが……気のせいですよね。
そう思いながら、真樹さんと共に買い物を終え……わたし達はアパートに向けて移動を始めました。
ちなみに、わたしも持とうとしましたが……荷物の殆どは真樹さんが持っていきました。
「化さんは軽いのを持ってくれたら良いから」
そう言いながらパンパンに膨らんだ袋を両手で持って歩く背中を、わたしは見ていました。
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