第8話 case3 誘惑の牙3

俺はばーちゃんに電話して、ユリちゃん・・・ヴァンパイアの使い魔を処理したことを報告した。


・・・さすがに、騙されて血を吸われそうになったことは誤魔化してだ。


そんなことを報告したら実家に呼び出されて目の前で説教されるのが目に見えている。


それに・・・誘惑されてホイホイついていったなんて話、恥ずかしくてとてもできやしない。


ばーちゃんから「よくやった!」って褒められてしまった・・・滅多にないことなんだが、胸が痛むぜ・・・。



「これは貸しだからな、ヨウジよ」


「わかってるって!ありがとなカゲマル・・・くれぐれも本当のことは内緒な?」


「ヨウジのこれからの態度次第だな」


「う・・・真面目に働きます・・・」



そうして俺達はユリちゃんの家を後にした。


ばーちゃんから警察に連絡を入れてもらうことにしたし、ユリちゃんの死体の処理は大丈夫そうだ。


ばーちゃんの話だと、最近この県内で血を抜き取られた男の死体が発見される事件が増えているらしい。


ヴァンパイアの使い魔によるものと見て間違いないだろうな。


ユリちゃん以外にもヴァンパイアに使い魔にされてしまった女が多そうだ。


もう既に、俺以外の怪異狩りがヴァンパイアの捜索に動いているそうなんだが、俺も動くことになってしまった。



辺りはすっかり暗くなっている。


俺は人のいない路地を歩きながら、カゲマルに話しかけた。


・・・さすがに街中だからカゲマルは姿を消しているが、すぐ側にいることはわかる。



「なぁ、ヴァンパイアってどこにいるんだろうな?」


「西洋の吸血鬼だと貴族が住むような城や屋敷に住んでいる、というのが一般的だがな」


「まぁな、吸血鬼っていったらプライドが高くて普通の家とかには住んでなさそうだけど・・・このあたりにそういう場所って、ねぇよなぁ」



俺達はそんなことを話しながら、家に向かって歩いていた。


今は駅近くの歓楽街だ。


さすがに土曜日の夜だから、この辺は人が多いな。


土曜日の夜だからか、「2次会いこー」とか「真ん中の席の子かわいかったよなー」とかそういう声が聞こえる。


みんな飲み会やら、合コンやらを楽しんでんだなー。



カゲマルとのおしゃべりもやめて、まわりに見えるフルーツみたいに色取りどりの店の看板を眺めながら俺は一人歩いて行った。


そして歓楽街のはずれにある、ちょっと暗めのピンクや紫色の光が多めな場所にでた。


ラブホ街だ。俺の家はこの道を抜けた先にある。


「休憩3,000円、宿泊6,000円」とかの看板がたくさん見える。


・・・ラブホの中ってどうなってんだろうな?


なんか色々な部屋があるらしいけど、入ったことがないからわかんねー。


・・・ああ、一緒に入る相手が欲しいぜ。ちくしょー!



そうそう、色々といえば外観もだ。


普通っぽい建物もあれば、キノコっぽい形をした屋根だとか、ユーフォ―みたいな形の変な建物も見える。


なんでラブホって、変な見た目の店が多いんだろうな?


メルヘンチックなものが多い気がするぜ・・・そういえばこの前、ダチとドライブしてた時に山道で絵本に出てくるような感じの城っぽい建物見たなー、もう閉店して廃虚っぽかったけどあれもラブホかな。



・・・あ。




・・・




「ふむ。城だな」


「だろー!?なんかココいそーじゃねー?」



という訳で、俺達は今、件の廃ラブホの城の前に立っている。


廃虚になっているせいか、なんか古城っぽい雰囲気もあるようなないような・・・


夜中だから、不気味さもあるなー。



あれから家に戻った俺は仕事道具の入れた大きなリュックをしょって、原付を1時間走らせた。


いつもは警察の車で送ってもらったりするんだが、今回はここに怪異がいるって確証がないから、自前で来たわけ。


原付って燃費良くて便利だよなー。



「確かに。廃虚になっているだろうに、車が数台止まっているところを見ると、何かあるかもしれんな」


「ああ、もしかしたらチンピラとかが集まってるのかもしれねーけど・・・確かめてみようぜ!」



そうして俺達は、ラブホ城の中へと足を踏み入れたのだった。

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