第4話 case2 人肉レストラン3

「まったく。こんなところに遊び半分で来る連中の気が知れぬ」


「いやー、怖いモノ見たさ、っていうのかな。怖い雰囲気を体験したくてこういう心霊スポットに来るやつって多いぞ」



相棒の大きなイタチの怪異・陰丸の呆れたようなつぶやきに、Tシャツにジーパン姿の金髪の若者・ヨウジが答える。


ヨウジの両手には懐中電灯と十手が握られている。


腰にも、握っている十手と同じものがさしてあった。



2人は今、大学生達が行方不明になった現場とされる、廃レストランの中にいる。


建物の中に入ってすぐの、入り口付近だ。


入り口のドアは、中に入ってすぐの床に落ちていた。


遊び半分で来た者達が蹴破ったのかもしれない、そんなことを思いながらヨウジは口を開いた。



「・・・かすかに血の臭いがするな、とっとと出どころ調べよーぜ!」


「うむ、しかし私は今回まだ詳細を知らない。教えてくれ、ヨウジ」


「ほいほい、じゃあ探しながら話すわ」



ヨウジは懐中電灯で周囲に向けてゆっくりと歩きながら、今回の仕事内容を陰丸に語っていくのだった。











今回の仕事はな、失踪した大学生達を探してほしい、って内容なんだよ。


それはカゲマルも知ってるだろ?


まぁ正確には、失踪の原因だと思われる怪異を退治してほしい、ってものだけどな。


そんでばーちゃんから電話があった時に、詳細は直接警察から聞けって言われたから、面倒だけど警察に行って聞いてきたんだわ。


警察の話だとな、最初に5人の大学生グループが、ここに肝試しに来たらしいんだと。



どうやらここは「人肉レストラン」って呼ばれてて、県内でも有名な心霊スポットらしいんだわ。


昔ここの店のシェフが人肉を使った料理を客に出していて、それがバレたシェフは自殺、店は閉店してそのままの状態。


・・・っていう、どこかで聞いたことがあるような噂話な。



5人グループのリーダーの男が、学内で「人肉レストランへ行く」って話を他の連中にしてたんだってさ。


で、その次の日から5人は全員大学に来なくなったらしい。



最初はサボりかなーって思ってた他の連中も、5人とも数日連続で休みだと、なんか怪しいなって思ったようだ。


5人の知り合いの何人かは、電話やライソで連絡したらしいんだけど、誰からも返事が返ってこなかったみたいだから、尚更だな。


で、好奇心に駆られた同じ大学の4人の男が、夜にここに来たらしいって話だ。


・・・らしい、っていうのは、その4人も行方不明になったからなんだわ。


その4人も、この「人肉レストラン」へ行くことを、友達に話してたんだとよ。



で、その友達が警察に連絡したらしい。


9人も行方不明になったんだから、まぁ警察沙汰だよな。


あと、行方不明者の1人が実家住みだったみたいで、その家族からも捜索願いが出てたんだと。


そういう訳で、警察も事件性を疑って日中にここに調べに来たそうだ。


もしかしたら、犯罪グループとかがこの廃レストランに潜んでいるかも、って考えたらしいよ。


最近、県内で連続殺人事件が起きてるようだからな。


んで、建物の前に乗り捨てられた車を何台も見たんだな。


ほとんどは古びて朽ち果てた車だったんだけど、その内の1台は新しかった。


最近まで誰かが乗ってたような、な。


まぁ、車は俺達もついさっき見たけどな。



でな?


警官の中に、霊感が強いやつがいたみたいでな?


そいつが、ここへ来た途端にぶるぶる震えだしたらしいぜ。


んで、ここはやばい、って言ったらしいんだわ。


悪霊がいる、ってな。


普通はそんなこと言っても周りから信じてもらえないんだが、その警官は別だ。


そいつは以前にも何度も、別の現場で同じように震えたことがあったみたいで、その現場は全て俺達が出向くような怪異が出る現場だった。


もしかしたら、その警官が調査のメンバーに含まれていたのは、警察も怪異がらみだってことをちょっと疑ってたのかもな。


で、警察はその警官の言葉を信用して、俺達に依頼してきたって訳よ。


警察も、さっき言った連続殺人事件の捜査で忙しいらしいから、そっちに専念したいんだってよ。


物騒な世の中だよな。











「・・・っで、今俺達がここにいるって訳よ」


「承知した。・・・だが長い話だったな。今度からはもっと簡潔に頼む」


「へいへい。気を付けますよ。でもなー、なんか違和感あるんだよなー・・・・お?」



話をしながら捜索していると、懐中電灯の光の先に闇が見えた。


壁際にあるそれは、よく見てみると地下へと続く階段だった。



「これは当たりかな?血の臭いもさっきより濃い」


「だろうな」



この先に、何かがある。



そう確信した二人は、その階段を1歩ずつ慎重に降りていく。



「うへー、狭いと血の臭いが強いなー。それに」


「怪異の気配も強いな」



1段ずつ降りるごとに伝わってくる、怪異の気配。


しばらく階段を降りていくと、足元を照らす懐中電灯の光に、床が映った。


どうやら階段の終わりが訪れたようだ。


階段の昇降中に怪異と戦闘をするのは、足場が悪いので避けたい。


そう思っていたヨウジは内心ホッとする。


口に出さなかったのは、そうすると陰丸から小言を食らうからだ。



階段を降りた後、立ち止まって懐中電灯を前に向けると、前方に部屋があるのがわかった。


部屋の入り口の前まで移動する2人。


入り口にはドアはない。


しかし、その部屋の中は闇に包まれており、懐中電灯を向けても中は見えなかった。



「どうやら、他の怪異を入れさせないための結界が張られているようだ。破るから少し待て」


「そんじゃー俺が先にちょちょっと行ってくるから、カゲマルも後から来てくれ」


「待て、ヨウジ!慎重に行動しろ!」


「カゲマルも知ってるだろ?俺、待つの苦手なんだよね」




陰丸の制止の言葉を振り切って、ヨウジは闇の中へと入っていった。

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