怨霊ジョーズ襲来!
しんと冷えた、十一月最後の土曜の夜であった。
高速道路沿いのラブホテル。その一室で、一組の男女カップルが行為に勤しんでいた。髪を短く刈り上げた精悍な顔つきの若い男とすらりとした体躯の女が、じっとりと汗をかきながら抱き合っている。部屋にはただ、二人の上げる意味を持たない声だけが響いていた。
その時、女の視界が、何か動くものを捉えた。風呂場から、何かが覗いている。
見えたものの正体に気づいた時、女は目を疑った。いるはずのないものが、そこにはいた。
「サメ!?」
ぬらりと姿を現したのは、青い背と白い腹をした、細長い流線型のサメであった。しかも青白く発光しているその体は半透明で、向こうの壁がほんのり透けて見える。
「え、サメ?」
「サメよ! サメ!」
「サメがどうした? あっ……俺もう……」
まるでサメの幽霊のようなそれは、大口を開けて男の背後に忍び寄った。だが、男は後ろを振り向かない。行為に夢中で、いるはずのないサメなどに構っている余裕はないのだ。
男の絶頂を女が察知したのと、男の頭部が血しぶきを上げながら消えたのは、ほぼ同時であった。青白いサメが、男の頭を一口で食ってしまったのだ。
女は何が起こったのか、すぐには理解できなかった。サメが真っすぐ己を見つめているのに気づいた時、ようやく女の脚は動き出した。
女は狂人のような叫び声を上げながら、扉の方へと走った。このままでは全裸で廊下に飛び出すことになるが、命には代えられない。サメは、自分を次の標的として捉えているに違いないのだから。
女の手が、ドアノブにかかった。だが、そこまでだった。女の下半身はサメの口にすっぽりと収まり、鋭い歯がその肉を裂いたのであった。
彼女の最期の悲鳴を聞いたのは、ただこのサメをおいて他に誰もなかった。
***
ラブホテルの一室で、男女が突如失踪する事件が起こった。ホテルの一室には二人の持ち物や衣類に加えて、二人のものとされる血痕も発見された。
この男女の内、女の方は過去に詐欺に関わり、自殺したとある男性に多額の借金を背負わせていたことが判明した。そのため、警察は怨恨の線も視野に入れて捜査にあたったが、結局この不可解な事件が解決を見ることはなかった。
そして、事件はこれだけに留まらなかった。東京、埼玉、千葉の一都二県で、同様の失踪事件が一週間で立て続けに十件も起こったのだ。明らかな異常事態であったが、しかし、警察はその尻尾を未だ掴めていない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます