愁絶
中学二年生の男子、
小学校からの友人であった
葬儀の席で、結乃は深水家の人たちに負けないぐらいに泣いた。まるでこの世を満たしてしまうぐらいに、結乃の涙は
次の日になっても、結乃の悲しみはちっとも収まらない。結乃はろくに朝食もとらないまま、小さい頃によく遊んだ公園にふらふらと足を運び、そこのベンチに腰かけた。その公園は、ちょうど深水家の向かい側にある。
土曜日ということもあって、公園では小さい子どもたちが保護者同伴のもと遊んでいた。かつて自分と怜もああして戯れていたのだ……何の気なしに視線をふわふわさせていた結乃の頭に、怜との思い出がありありと、驚くべき鮮やかさをもって再現された。
彼は、怜は、一言で言えば善良な少年であったといえる。幼稚園で初めて会った時、彼は体の大きい子に意地悪をされていた結乃を庇って、敢然とその子に立ち向かった。気づいた大人が仲裁に入るまで、それはもう鬼神もかくやという奮闘ぶりであった。
それから、二人は無二の友人同士となった。たまたま家が近かったこともあって、二人は長い付き合いとなった。
そうした想像が、結乃の涙腺を綻ばせた。世界が、自分の涙で溺れ出した。溢れた涙は、もう止めようがないほどの洪水となってしまった。
「葛城結乃くん」
唐突に、女の人の声が聞こえた。袖で涙をぬぐった結乃が見たのは、ベンチの右隣りに座る、大人の女性であった。
「えっと……誰ですか……?」
「そっか、忘れちゃうよね。私は深水
そういえば……確かに怜には年の離れた姉がいた。小学生の頃に見たことある気はするが、はっきりとその姿を覚えていなかった。そして先日の通夜で、怜がそのまま大人になったかのような女性がいたのを思い出した。
改めて見ると、真咲は怜そっくりであった。怜自身が中性的な見た目であったということもあろう。彼女はまさしく、大人の怜とも言うべき顔立ちをしていた。唯一大きく違うのは、どちらかといえばほっそりとした印象であった怜に対して、彼女には豊満な胸部があり、太ってはいないものの女性的な肉感を持っていることだ。
「ねぇ、結乃くん、明日空いてる?」
「えっ……まぁ」
「実はさ、怜が見たいって言ってた映画の前売り券が余ってるんだけど……せっかくだから一緒に見に行かない?」
真咲は人差し指と中指に挟んだ映画の前売り券を見せながら、笑みを含んだ顔で言った。その映画は空を飛ぶサメが人を襲うという映画で、確かに怜が好みそうなものであった。
もし、結乃が大人であったならば、この時の彼女の他意に気づいたかも知れない。だが結乃はまだ齢十四の少年に過ぎず、そうしたことを察するにはあまりにも若すぎた。
この出会いが、結乃と真崎の、
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