シャーク・イン・クリスマス 鮫の六時間
武州人也
ブルーゴースト
ああ呪わしい。呪わしい。
どうして俺は幸せになれない。
これまでずっと、異性と縁のない人生であった。
子どもの頃から、不細工な見た目のせいでバカにされてきた。俺自身は女の子が好きなのに、女の子の方は俺のことを好いてくれない。いや、好いてくれないだけならまだいい。彼女らから向けられるのは、嫌悪や蔑みの視線だけだ。
そんな人生を送ってきた俺が、ようやく一人の女性を射止めた。……そう思ったのだが、彼女は
全くどうしようもない、つまらぬ人生であった。もう、死んだ方がよい。死んだ方がよい……そう思って、今こうして岩崖の上から荒波蹴立てる海面を除いでいる。
……その時であった。何か、声がした。声変わり前の少年が出すような類の声だ。
「おいで……」
か細い声であった。何かが、自分を呼んでいるのだ。
言われなくても、そっちに行ってやるさ。
そうして、俺の体は宙を舞う。白い波が、どんどん目の前に近づいてくる。
海中に没した俺が見たのは、水底で微笑む少年であった。白い肌をした全裸の少年は、誰もが羨むような見目麗しさを持っていた。女好きもしそうであるが、きっと女装すれば男だって楽々と落とせるだろう。今まで見たどんな人間よりも美しい見目形をしている。きっと人魚でさえ、彼の麗しさには嫉妬を覚えるであろう。
少年の長い黒髪が、まるで海藻のように水底に揺らめいている。何処か女性的な嫋やかさを感じさせるような細い四肢は、まるで白いヒトデのように大の字に広げられていた。あどけない円らな瞳は、真っ直ぐとこちらに向けられている。
ああ……何と美しい少年だ。どうして俺はあのように美しくないのだろう……
その時、自分の右脚に激痛が走った。全く唐突な痛みに驚いた俺は、右脚を見て驚いた。
……サメだ!
青い背に細長い体をしたサメ――確か、ヨシキリザメと呼ばれる種であったはずだ――が、俺の体を食おうとしていた。
激痛に悶える俺が最後に視界に捉えたのは、悪魔めいた笑みを浮かべる美少年の顔であった。
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