第22話 母上の特別な人 (ルイス視点)

今回の聖女召喚の儀は無事成功したと聞いたでも、一人ではなく二人だったという。父上も兄上も片方が聖女だと言い張ってその人ばかりを贔屓ひいきしてもう一人の方はいい対応をしていないようだった。少し気にかかるが自分に関わりがないので気にしないことにした。聖女召喚の儀から少し経った今、母上がもう一人の方と会って話をしたらしい。母上が言うにはとても優しい人だった話し相手が出来たと喜んでいた。それと同時に僕の耳にはもう一つある話を聞いた。父上と兄上が聖女としているもののいい噂があまりないと…僕は、本当にその人が聖女なのかを疑った。母上はあれから週一回ほど聖女ではないと言われた方とお茶をしているらしい。


「ベル、母上とお茶をしている方がどんな方が知っていたりする?」

「少しは耳にしております。わたくしが聞くには、とても優しくてお菓子を作ることが出来る方だと…」

「そうか、それにしても聖女様は兄上たちに色目を使ってるって噂を聞くのだが…」

「わたくしの耳にもそう入っております。あまりいい印象を持てませんね。」

「執務にキリがついた。ベル、少し散歩しに行く。」

「分かりました。」


執務室からそう離れていない、裏庭辺りを歩く。いつもは誰もいないテーブルに今日は座っているようだ。


「ベル、あれは誰だ?僕は会ったことない人みたいだが…」

「あれは…奥様とお茶をしている方ではありませんか?」

「少し見ていくか…」


どんな人物か少しでも知るために観察をしていると振り向いた、目が合った。奥に見えるのは、グレンか。その日は執務がまだ残っていたから戻ることにした。何日か休憩の時、裏庭へ行くと時々姿を見ることが出来た。姿を見るたびどんな人か人柄が気になった。そんな時、僕はその方に会いたいと言った、母上は聞いてみるわねと嬉しそうにその方に手紙を書いていた。母上は人の好き嫌いがはっきりしているから分かりやすいが、ここまで好意的に思っている人は久しぶりに見た気がした。今日もいつも通り執務をこなしあっという間に母上との時間になった。予定している時間になるとその方は入ってきた。


「急に手紙ごめんなさい、今日は来てくれてありがとう。」

「いえいえ、初めてのお手紙がレティ様でとても嬉しかったです。ありがとうございます。」

「そう言ってもらえると私も嬉しいわ。そこにお座りなさい。」

「は、はい。失礼します。それで会わせたい人とは…」

「私の息子、この国の王子に会わせたかったの。」


母上はその方と少しやり取りした後僕たちの事を紹介し始めようとした時。兄上が暴走した。


「母上、なぜ。この者が母上の事を愛称で呼ぶのですか!」


母上は、あまり人に愛称で呼んで欲しいとは言わない、でもそれほどこの方を好意に思っているのだろう。それでも納得できていない兄上は本人がいるまで酷い言葉を言っていた。


「ですが!この者は聖女召喚で召喚された、何もできない役立たずじゃないですか!」


令嬢などはこんな言葉を聞いただけで泣いてしまうだろう。だが、この方反論をしなかった。それよりありがたいとお礼を言っていた。この時、母上がベルが優しいと言っていたことが理解できた。兄上は、この方を嫌っていると言っていた。なんでだろうと疑問に思いながらも自分の番が来たことで考えるのをやめた。


「エルメルト第二王子、ルイスです。初めまして母上からアオイさんがいい方だとは聞いています。お会いできて嬉しいです。」


リベルの紹介が終わったとやっと名前が聞けると思った。心のどこかで物凄く印象に残っていたのだろう。


「レティ様と仲良くさせて頂いてます。アオイ・ツキノです。私の事はアオイと呼んでもらって構わないです。お会い出来て嬉しいです。」


それから、グレンが近づいてきたと思えばお茶会を見ていたのは僕だと言った。流石はグレンでも何も言わずに見ているのは気持ち悪かっただろうから謝った。アオイさんは許してくれた。母上だけ愛称で呼ぶというのは少しズルいと思ったから僕の事も愛称で呼ぶようにと頼んだ。部外者の私が呼んでいいのかと心配していたが僕が呼んで欲しいのだと強引に読んでもらえることに成功した。何故会わせたかったのかを母上は説明をした。アオイさんは、城で自分はいいように思われていないのに大丈夫かと僕たち王族の心配をしていたが母上は一部の人からはとても好印象なんだと話していた。じゃなければ、僕の耳にも優しいとは入ってこないだろうから。それからは手作りのお菓子を母上に渡していた。そのお菓子は「特別な人」と言う意味があるらしい。


「あら、そんな風に思ってくれてたの?嬉しいわ。ありがとう」


その時は、あまり顔に出してはいなかったが母上はとても嬉しそうだった。兄上は、この空間にいるのが嫌だったのか出て行ってしまったがその後は母上、リベル、僕、アオイさんの四人でお茶をした。



◇◆◇


次の日僕は、朝からアオイさんの部屋へと向かった。特に理由はなかったが話したいというのは本心だった。押しかけてしまったのは申し訳ないが僕が見ていた。裏庭でのお茶会をすることになった。僕は、アオイさんと雑談をしながら廊下を歩いていると運が悪く、聖女の大群に会ってしまった。最初は僕の姿は見えていないみたいでいいことを言っていなかったが通り過ぎる直前。やっと僕存在に気づいたみたいだ。何故、僕と居るか問われていたが恐怖でか答えられていなかった。


「それは…」


僕が仲裁しようとすると問いただしていた奴が大きな声を出してアオイさんを殴っていた。答えれなかったから、すぐ殴るのはおかしいだろうと怒りが湧いたがまずは、アオイさんのところへ慌てて向かった。アオイさんは殴られた衝撃でか口が切れて血が出ていた。それを見てさっきより怒りが沸い。いや、殺意が湧いた。そう思った時には、僕は殴った相手を睨んで怒鳴っていた。


「今、何をした…?」


そう、今度は僕が問いただすとそのものは馬鹿げたことを言ったのだ。


「ルイス様の事をたぶらかしたものに罰を与えたのです!」


たぶらかした?僕が勝手に押しかけて好きで一緒に居ることも知らないのに?


「私をたぶらかした?何を見て言っている」


そのものはまた馬鹿げた証拠にもならないことを言った。


「女がルイス様と一緒に居たのが証拠ではないですか!」


話にらちが明かないので僕が誘ったといった。なのに全く信じず、それならば聖女を誘うだろうと勝手に決めつけた。めんどくさいと思った瞬間。アオイさんが話し始めた。道に迷ったのを僕が案内していたと部屋の外に出た自分が悪いと僕を庇ってアオイさんは自ら傷つく発言をした。そのまま部屋に戻ろうとしていた時。予想外の声が廊下に響いた。甘ったるい僕はあまり好きじゃない声だ。


「あの、すみません。」


アオイさんは、歩く足を止めて振り返った。その次に、響いた言葉が問題だった。


「その騎士様、少しお時間いいですか?」


目線からして、グレンだった。何故この時に呼び止めた?聖女の騎士でもなくてアオイさんの護衛なのに…この件でなおさら聖女の事をあまり好意的にとは思わなかった。グレンもあまりいいように思っていないからだろうか嫌そうに答えていた。


「お話したいんですが…?いいですか?」


聖女は分かっていないのだろうか?今、護衛中で無理だという事を…聖女だから何でも思い通りになるとでも思っているのだろうか?それならば、だいぶ頭が悪い。その時、アオイさんは行ってくればいいといった。疲れてるだろうからとそれだけ言い残して部屋に戻っていった。僕は、その言葉を言う時のアオイさんの目は光がなかった。聖女もその言葉を嘲笑うような笑顔を一瞬浮かべていたのを見た。本当は今すぐアオイさんを追いかけたかったが、そんなことをすればまたアオイさんが何かされるかもしれないと思いとどまり。僕は、急いで母上にこの事を伝えに行くことにした。

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