第7話 僕の闇

 僕はこれまで、セックスを気持ちいいと思ったことがなかった。


 一人でするほうが気持ちいい、と言ったほうが的確か。


  


 童貞を卒業したのは、2年前くらいで、それから何度か経験しているが、


 マスターベーションを超える快感は、まだない。


 よく、中高生のころはセックスに憧れしか抱いてなく、


「どんなものなんだろう」


「女性の身体はどんなに素敵なんだろう」


 などとあらぬ妄想で時間を最大限有意義に過ごしてきたわけだが、


 いざ、目の前にエサを与えられると、


「自分が本当にほしかったのは果たしてこれなのだろうか」


 と謎の哲学的迷路に入り込んでしまって、行為自体に集中できないことが多かった。


  


 まあ、女性自体も人間なのだから、いくら可愛く見繕ったって、糞はするし、おならも出るし、ムダ毛も生えるし、便秘のときは息が臭くなる。そういった現実を、まだ鼻たれ小僧の僕は、受け入れることができていないのかもしれない。


  


 これは全責任を押し付けるわけではないが、アダルト動画の身近さとそのクオリティの高さに起因していると思う。女性に高い金を払ってエスコートせずとも、無料で、今の自分の欲に最適な顔、スタイル、シチュエーションの女性を取捨選択でき、言い方を変えれば、そこは自分の独裁国家となる。男にとって、そんな居心地のいい場所は他にない。


 女性から振られることも、拒否されることも、キモイと言われることもない。ノーリスクハイリターンの投資である。そんなオアシスに約7年以上も安住していた僕だ。現実の女性の良さがわかるわけない。


「タダが一番高い」と言われるが、無料できれいな女性の裸にアクセスできるような環境のせいで、本来喜びを感じるはずの生身の女性に興奮できない。


 童貞のころは気づかなかったが、これは、大きなリスクである。


 なぜなら、人類滅亡まであるから。


  


 だから、僕は今日、ちゃんと”彼女の身体に興奮する”、という裏テーマがあった。


 本来の”生身の人間”へと生まれ変わるチャンスだという意気込みで。


  


 まな「タオルある?」


  


 浴室から湯気と共に女の子の声が響いてくる。


  


 僕「あるよ。ちょっと待って」


  


 洗面台の下にある、白いふかふかのバスタオルを持って浴室のドアを開ける。


  


 まな「きゃっ!見ないで!」


  


 タオルを勢いよく取られた僕は、浴室のドアをバタンと閉められ、立ち尽くしていた。


 なんというか、ドラマでよくあるシーンだと思いながら、


 やっぱり裸を見られるのは恥ずかしいよな、なんて当たり前のことを、彼女を通して確認する。


 1人で大きなダブルベッドに腰かけた。


  


 これから僕は、”生身の彼女”とセックスする。


  

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