第9話:なでなでハグをすると膝枕が返ってくるあまあま夫婦

「ただいま帰りましたー」

「おかえりー」


 夕方になり。

 真野花ちゃんが帰ってきた。

 僕はパソコンの画面を見たままキーボードを打ち、そう答える。昨日は一気に何件も依頼が来たので、自然と今日は忙しい一日だった。朝からずっと執筆しているが、自分でも疲れているのが分かる。書いている間は時間の流れを忘れるので分からなかったが、真野花ちゃんが帰ってきたということは夕方の6時を過ぎているはずだ。


「お疲れ様です。麦茶でも飲まれますか?」

「あ、うん。おねがい」

「はい。お夕飯も今作るので少し待っててください」


 真野花ちゃんが就職してからは僕のほうが家にいるので、基本的に平日は僕が料理当番になっている。だけどそれは決まっているわけではなく、お互いが作りたい時にチャチャッと作って相手に振る舞う感じで。

 今日みたいに僕が忙しい時なんかは彼女が作ってくれる。正直独り身だったらカップラーメン生活まっしぐらだったと思うので、彼女がいてくれて良かった。


 しばらくして。

 夕飯ができたようで、美味しそうな匂いがする。今日は親子丼のようだ。


「進捗のほどはいかがです?」

「んー、まあいい感じだな。多分もう30分くらいで終われるかも」

「そうですか。どうします? 夕飯食べてからまた再開しますか?」

「いや、あと少し頑張る。先に食べてていいよ」

「いえ、稀助さんがお仕事終わるまで待ってます」

「そ、そっか……よし、頑張るぞ」


 グーンと背伸びをして。

 僕は電子の筆を走らせる。

 その間真野花ちゃんはニコニコしながら僕を見ていた。そんなに執筆している所が面白いのだろうか。


※※※


「っっ、はぁぁぁ……終わった……」


 30分ぴったりに書き終わり。

 僕は大きく息を吐いた。


「お疲れ様です……」

「ありがとう。ごめんね待たせちゃって。さ、食べよ」

「はい♡ レンジで温め直してきますね」


 真野花ちゃんが電子レンジで親子丼を温める。少ししてリビングに運ばれ、ようやく遅めの夕飯タイムだ。


「いただきまーす」

「いただきます……」


 まずは鶏肉を一口。

 食べやすいように小さめに切られたお肉は、噛めば噛むほどジューシーな味がして、食感もプリプリしている。一瞬で一日の疲れが取れた気がする。いや、取れた。確実に取れた。


「どう、ですか? おいしーですか?」

「うん、めっちゃ美味しい。真野花ちゃんはお料理が得意だね」

「えへへ……そうですかね、そうですかね……にへへ」


 ポカポカした太陽のような顔で微笑む真野花ちゃん。可愛い……今すぐ抱きしめたい。

 堪らず僕は彼女の頭を撫でる。


「よしよし、可愛いね」

「〜〜〜〜っ♡ なでなで、すきです」

「僕も真野花ちゃんなでなでするの好きだよ。触り心地もいいし、何より真野花ちゃんの反応が可愛くて」

「もぉ、褒めすぎです♡ ほら、ご飯冷めちゃいます」

「ごめん、一回ハグ挟んでいい……? 真野花ちゃんが可愛すぎて、ヤバい」

「ふふ、しょうがないですね……♡ いいですよ、キてください♡」


 真野花ちゃんが両手をいっぱいに広げ。

 ハグの姿勢に入る。僕は彼女に駆け寄り、ポカポカの天使を抱きしめる。


「可愛い……肩ちっちゃ」

「〜〜っ♡ 稀助さんの匂い、すき……」

「夕飯作ってくれてありがとね。いつもありがとう」

「はい……♡ 稀助さんも執筆お疲れ様です!」

「いい子だね。なでなでをしてあげよう。ハグしながら頭をなでなでしたら君はどんな顔になるかな……?」


 真野花ちゃんを抱きしめながら。

 彼女の頭をなでなでする。すると彼女は顔を真っ赤にして、声にならない声を上げる。


「ぁ、ぅ、〜〜〜っ♡ それっ、ヤバいです……ダメになっちゃいます……」

「今はダメになっていいよ……僕の前ではダメになっていいから……」

「〜〜〜っ♡ あのっ、まれすけさん」

「あー、おけ」


 じっとりと熱く濡れた眼の奥には。

 その先のコミュニケーションを求めていて、ならば僕も答えなければと彼女の頬に手を添える。そうして僕らは、


「……っ、ん♡」


 キスをした。

 身体を重ねて初めて分かること。

 真野花ちゃんの唇は少し震えており、小さく「あぅ」とか「ぅ……」とか可愛らしい声を漏らしている。怖くないんだよ、と恋人繋ぎをしてあげると、いとも簡単に緊張の糸が解けたようで、ユルユルと瞳を緩ませ、身体を脱力させる。


「はぅ……ぅ♡」

「……夕飯、食べよっか」

「ぅ〜」

「もっとして欲しいの?」

「……はい。もっとがいいです」

「真野花ちゃんが言うならしょうがないな」


 こんな風にひとしきりイチャついた後に。

 ようやく夕飯を食し、今度は僕が真野花ちゃんに甘える。


「よしよし♡ おネムになりましたか?」

「あ、うん……」


 真野花ちゃんに膝枕されて。

 ポンポンと優しく身体を撫でられる。

 どうやら彼女は僕を膝枕するのが好きらしく、僕が頼んだらいつも喜んでしてくれる。


「今日も一日お疲れ様ですね……大変でしたね、疲れましたね、頑張りましたね……エラいエラいですよ……♡」

「……っ」

「眠たくなっちゃいました? あははっ、ほんとに眠たいんだ♡ ……いいですよ、寝てください……今日は疲れましたね……いっぱい頑張って苦しかったですね……あなたが頑張ってる所、いっぱい見てますよ……おやすみなさい……大好きですよ……♡」


 すやすや♡ と。

 いつの間にか僕は眠っていた。

 今日は一段と深い眠りで。数時間後起きた後はすっかり一日の疲れが取れているのだった。やっぱ真野花ちゃんの膝枕は最強だなぁ。

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