第13話 事情
大学付近ということだけあって店の種類は沢山ある。
俺はベタだがバーに行くことにした。酒は飲めないが。女にその事を伝えると俺の方に向き
「私は勿論いいけど、あなたお酒飲めないんじゃなかった?」
っと揶揄してきた。俺は少しムッとしたが何も言わなかった。店までの道を歩いている時俺たちは無言だった。よく考えてみれば数時間前に出会った中なのだ。そんな人と一緒に歩くなどどうかしている。それに俺はずっと友達も恋人も作ろうとはしてこなかった。以前の俺は違っていた。事件で変わったのだ。
だが今はどうだろうか。この女は友達と呼んで良いのだろうか。それとも・・・
突然女が喋りだした。
「あなたの名前何ていうの?」
「俺の名前は矢神修哉。あんたこそ名前何ていうの?」
「私は水野楓。きへんに風って書いて楓」
「良い名前だな」
その言葉に俺自身が驚いた。良い名前?俺がそんな事を言うとは信じられない。
俺は自分自身に混乱した。
考えながら歩いていると店に着いた。窓から中を見ると客はチラホラいる。まだ9時頃だからだ。店に入ると店員にカウンター席を案内された。俺は楓が席に座った事を確認すると
「なんの飲み物にする?」
と尋ねた。すると楓は
「そうだね。ジントニックにしようかしら」
「なんだい。ジントニックって?それに君、酒飲めるのかよ」
「ジントニックっていうのはカクテルの定番中の定番。それに私は20だから酒は全然大丈夫」
俺は頭の中で酒を飲めるようになったらジントニックを飲んでみようと思った。楓は俺の一つ年上だった。小柄なため一つ年下かと勝手に思っていた。納得したように楓を見ていると
「どうせ、私が小柄だから自分の方が年上だと思っていたんでしょ」
言い当てられ「なぜ分かった」と尋ねると
「男って大体考えてることってエッチなことか自分の方を偉く見せるかどうかしか考えていないんでしょ」
別に楓より偉く見せたいなんて気持ちはなかったが言い当てられた為「確かにそうかもな」と納得してしまった。
俺はノンアルコールを飲みながら、楓と話をした。彼女が通っているのは俺もよく知っている有名な女学院だった。そう思うと彼女から異様なオーラさえ感じたりした。
話題がなくなり、そろそろ帰ろうとすると
「ねえ。LINEでも交換しない?こうやって出会ったのもなにかの縁だよ。あんたが良いなら構わないけど」
楓から言ってくれたことに俺は胸が高鳴った。そうして俺たちはそれぞれの帰路についた。
事件の歯車は少しずつ動いていたー
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