第8話 進路

扉を開けるとまず俺の目に入ったのは紛れもなく自分の机だった。事件が起きて以来何も変わっていない。俺は彼らの顔を見た。一瞬彼らは何が起きたのか理解できていない様子だった。しかしすぐに気まずそうな顔になった。きっとどう声を掛けれるのが正解なのか分からないのだろう。実際俺もどう返事をすれば良いのかわからなかった。

席に着く。すると一人が俺のもとに寄ってきた。親友の橋本だった。よくお互いの家で遊んだことを覚えている。俺の顔見て話し始めた。


「なあ、どうだい?」

「どうだいって何が?」

「ほら事件のこと。もう、全てが終わったのかい」


皆俺たちの会話を全然気にしていないように見えるがおそらく全員が聞き耳を立てているに違いない。俺は敢えて少し大きな声で言った。


「ああ、犯人は未だ捕まっていないんだ。警察は一体何をしているのやら」


その瞬間クラスの空気が凍りついた。小声でいろいろなことが聞こえてくる。

「まじかよ・・・」「まだ、犯人が捕まってないなんて」俺は兄のブレーキ痕が無いことは言わないことにした。そのことは誰にも言っていない。


「そうか。だけど大丈夫だよ。だぶん」

「サンキュー。お前がそう言ってくれると少し気持ちが楽になる」


そう言われ嬉しかったのか橋本は嬉しそうな顔をした。扉が開いて、森口が入ってきた。それと同時にチャイムがなる。


「起立」


号令と共に一日が始まる。


結局その日は何も起こらなかった。橋本は朝の会話以降話しかけてくることはなかった。皆も同じだ。彼らはしばらくはそってしておこうという意見で一致したのではないかと思う。俺としてもそうしてくれることに感謝した。




そんな日々が続いた。




ある日、橋本が久々に話しかけてきた。


「なあ、修哉。大学先とか決めたか?俺お前の条件にピッタリ当てはまる良い大学見つけたんだ」


ふと気づけばもう2月だ。橋本から渡されたパンフレットは知らない大学名だった。橋本が言う。


「この大学さ必ずしも行って講義を受けなくてもいいんだ。その代わり家でオンライン上で講義を受けるんだ。そのおかげで年間費用も安い。入る試験は無いから安心しろ。なかなか良いだろ」


橋本は胸を張って言った。確かに条件は悪くない。しかし一つだけ不安なことがあった。


「なあ、俺にはパソコンがないぜ。これじゃあ、この大学は無理さ」

「大丈夫。俺が前使っていたパソコンをやるよ。けどちょっと汚れてるけどな」


俺は驚いた。そんな好都合なことがあるのか。大学名は東京通信経済学部。悪くない。俺は言う。


「俺、大学をここにしようと思う。橋本ありがとな。お前と友達でよかったよ」

「いいよ。気にすんなって。困っていたら助けるのが当たり前じゃないか」



そう言い、橋本は照れくさそうに笑ったー



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