第6話 誤解

俺は家に帰ったらすぐさまベッドの横になった。冷静に考えてみるとあの時の違和感に気づいた。敬語じゃないのだ。細田は敬語で話していなかった。世間的に見れば年下に対してタメ口なのは当たり前なのかもしれないが、それでも少し馴れ馴れしかった気がする。

そして犯人のブレーキ痕がなかったこと。早く犯人が捕まって欲しい。まだ、何も進展がなかったことに対して警察に失望したのは確かだが、だからといって警察以外に頼る術以外何もないのだ。なんて無力なんだろう。周りに迷惑かけてばかりだ。自分は誰かの役に立っているのだろうか。本当に自分は世の中で


必要とされているのだろうかー


翌日も俺は皿洗いから仕事が始まった。慣れてきたこともあり時間は掛からなくなった。また、料理名も着々と覚えてきたことで接客業も苦ではなくなってきた。


あっという間に今日も時間が過ぎ、閉店1時間前に差し掛かろうとしていた時のことだった。この日最後の客は男二人組だった。二人とも少し顔が赤い。お酒でも飲んできたのだろう。わざわざこの店で飲み直す必要などあるのだろうかとも思ったが敢えてツッコまないようにする。俺がオーダーを取りに行くと案の定ワインだった。河野は無類のお酒好きなのでワインの種類は豊富なのだ。もしかしたらそれを知って来たのではないかと俺は思った。注文品を河野に伝えると河野はワインの瓶を男たちに持って行こうとしていたので、俺が持っていくと伝えると「大丈夫だ」と言われ仕方なく俺は厨房に引っ込んでいることにした。陰で様子を見ていると河野を見た男の一人が


「お!河野久々だな。この店を訪れたのは3年前だっけ。まだ続いていたなんて意外だな」


するともう一人の男も


「河野!お前少し老けたか?無理せず店の営業しろよ」


と言い。河野を見て笑顔になった。なるほど。あの男たちは河野の同級生なのか。

どうりでこの店で飲み直しをする訳だ。河野も嬉しそうに笑い、三人で談笑し始めた。


30分も経つと男たちはアルコールが効き始め、饒舌になった。すると男が、


「最近の警察ってのは不親切なもんだ。俺が前財布を落としたから警察に言いに行ったら、落としたものは仕方がありませんだってよ。何だそれ」

「まあ、仕方ないよ。警察だって日々事件に追われているんだから」

「そういえば、最近事故があったよな。ほらここらへんで。現場が地元だったからさ俺驚いて、その事件について詳しく知ろうと思っていたら今日、新しい情報が入ったんだ。なんと被害者側の自転車にブレーキ痕の形跡がなかったらしいんだ」

「え!それじゃあ、お互い様じゃないか!」

「そうなんだよ。この事件面白くなってきそうだぞ」


男たちは豪快に笑った。


その話を聞いている間、俺は金縛りにあった様に一歩も動けなかった。



お互い様?



兄は被害者ではないのかー

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