第5話 失望
かなり久しぶりに練馬警察署に行くことになるため行き方はうろ覚えだったが歩いているうちに段々と思い出してきてなんとかたどり着くことができた。集合場所は練馬警察署の前の喫茶店のはずだ。細田が言っていた通り茶色と黄色のボーダーの看板がある。少し早めに到着したのでまだ居ないはずだ。ドアを引いて中に入る。店内を見渡したが居なかった。店員にもう一人来ると伝え、俺はコーラを注文した。俺は何故細田がここを選んだかを理解した。この店は照明が暗く客席も離れているため、誰かが聞き耳を立てる恐れが無いからだ。
するとドアが開いて細田が現れた。相変わらずデカく顔もいかつかった。俺が居ることに気づき、声をかけながら俺の向かい側に座った。
「久しぶりだな。事件の日以来か。今の生活に苦労してないか」
俺は違和感を覚えた。前と明らかに何かが違う。しかし今はそんなことを考えている場合じゃない。俺は単刀直入に尋ねた。
「事件になにか進展はあったんですか」
「あったといえばあったが・・・」
更に俺は尋ねる。
「例えばどんなことなんですか」
「そんなことより、もう今は働いて居るのかい?もしそうだとするのならば大変だ。俺が高校生の頃なんか遊んでばっかりだったからな。だから夜に遊んでいる高校生を補導する時どうしても少し同情しちまうんだよな」
どういうことだ。何故話を逸らす。俺はそんな話をしたいんじゃない。
「話を逸らさないでください」
「別に逸している訳じゃない。君の今の現状を知りたいだけだよ。きっと苦労しているだろうから。悩みとかは無いのかい?もしあったら相談に乗ろう」
「本当は何も進展が無いんですよね」
「いや、事件は確実に解決へと進んでいる」
「じゃあ、話してくださいよ」
思わず声が大きくなる。すると細田は辛そうな顔した。
俺は声を震わせながら言う。
「正直に言ってください細田さん。お願いします」
しばらく沈黙が俺たちの間に流れた。細田は苦しそうに言った。
「残念だが何も進展がない。分かっているのは犯人の車のブレーキ痕が一切無いことだ」
目眩がした。もう何日も経つというのに。ブレーキ痕がなかった?つまり犯人は躊躇いもなく兄を引いたのか。いくら不意であったとしてもブレーキは踏むはずだ。その瞬間俺は犯人への怒りが極限に達していた。
そこで俺は間違いを犯した。その怒りを細田に向けてしまった事だ。もう少し冷静だったら良かったのかもしれない。
「警察はそんなことしか調べられないんですか。今の時代、科学捜査も進歩した中で。人を引いただけの簡単な事件の犯人も捕まえることができないんですか。それでも警察ですか。こんなの、ただの地方公務員だ!」
俺は早口でまくし立てる。細田は黙っている。俺は勢いよく立ち上がった。勘定なんてするもんか。俺の期待は何だったんだ。
俺は失望した。
警察と他人を攻めることしか出来ない自分に。
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