第3話 雇用
土曜日になった。俺は久々に歩く高校への通学路に新鮮さを感じていた。
途中、同級生に会わないように細心の注意をはらって歩いていたため、ひどく時間がかかってしまい、5分、集合場所に遅刻してしまった。案の定、
「修哉、何してんだ〜!これからお前の就職先を案内してやるっていうのに遅刻するとは!」
いや、5分だし。就職じゃなくてアルバイトだし。
色々と文句は言いたいがこうなったのも全て自分のせいなので言わないことにする。
「それじゃあ、向かおうか」
森口が歩き始める。俺はその後ろをついて行った。少し歩いた後、俺の家から最寄りの駅で電車に乗った。まさか、アルバイト先は遠いのではないかと少し不安になった。今の自分に電車賃にお金を使うほど経済的余裕はない。しかし降りた駅は、たった2つ程だった。森口が言う。
「どうだ修哉、お前の駅から近いだろう」
おそらく森口は距離という点でも考えてくれていたのだろう。俺は心の中で森口に対して感謝した。駅から3分ほど歩くと
「修哉、あれだよ」
と言って森口は店を指さした。
見た目は少し古びた感じだろうか。壁はレンガでできており、洋風な店ではないかと思われる。店の前には植物が並べられており名前も知らない花が咲いていた。森口がドアの前に立ちノックする。しばらく間があって扉が開いた。
中から出できたのは少し髭を生やしたよく日に焼けた男だった。目つきは優しく、俺はもう少し厳しそうな人が出てくるのではないかと思っていたから安堵した。
「よう、河野。電話で話した俺の生徒を連れてきたぜ」
河野という名の男がこちらを目を細めてじっと見る。そして森口の方に向き直ると
「よく来てくれた。どうぞ中に入って」
森口と俺を招く仕草をして催促してきたので俺たちは中に入った。河野が言う
「君のことは森口から聞いているよ。修哉君だよね。早速明後日から働いてもらおうと思っているのだが。この店は日曜日は休みだからね」
え。明後日?俺は突然のことに驚き、森口を見る。森口は俺に向かって下手くそウインクをした。後に判明することだが、どうやら森口は俺を月曜日から土曜日まで働かせて欲しいと河野にお願いしたらしい。
いや、
キツすぎる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます