第2話 孤独
兄の通夜や葬儀で一日が光のような速さで過ぎていった。
通夜と葬儀はお隣のおばさんに全て手配してもらった。隣人だからといってそこまでしてもらうのは流石に躊躇ったが
「なーに、そんな事ぐらい気にしなくていいのよ」
と明るい口調でおばさんはガハハと豪快に笑った。これを見た人はなんて無神経な人なんだろうと思うだろう。しかし、おばさんは敢えてそうしているのだ。
俺を悲しませない為に。落ち込まないように。
自分はおばさんの様な良い人に恵まれてよかったなと思った。
兄を失ったことにより、残ったのは寂しさと兄が稼いだ残り僅かな貯金だけだった。貯金はいずれ底がつく。俺もアルバイトをしなければならない。
学校にも行かなければならなかった。
兄が死んでから、学校に1回も行っていない。
行かなければならないと分かっているのだが、いざ行くとなると同級生とどんなふうに接したら良いのか分からない。昨日、担任の森口から電話がかかってきた。
「修哉、学校にはいつになったら来れそうだ?」
森口の相変わらずのフットワークの軽い声で聞いてくる。
「すいません。まだ気持ちの整理がついていないんです」
「そうだよな。無神経な事を言ってすまない。ところで、修哉はアルバイト探しを今してるか?」
急に話題が切り替わった。勿論今はアルバイト探しに必死だ。
「今は雇ってくれそうなところを探しています」
「そうか。その件に関してなんだが、修哉を雇っても良いと言ってくれているお店があるんだ」
「本当ですか」
この様な幸運が巡ってくるとは。この機会を逃したら駄目だ。
「どうだ修哉。一度オーナーに会ってみないか。実はそこのオーナーおれの高校の時の同級生なんだよ」
断る理由がなかった。
「是非お願いします」
「よし。じゃあ決まりだな。日にちはどうする?」
「先生の都合が良い日で大丈夫です」
「そうか。じゃあ、今週の土曜日。学校前の集合でいいか?」
学校前では同級生と出会ってしまうのではないかという思いはしたが、今はそんな事はどうでもよかった。
「分かりました。ではまた」
「おう。じゃあな」
電話が切れる。今週の土曜日。今日は木曜日だ。
一体どんなお店なのだろう。
接客業をすることになるのか。それとも会計係。いや、最初は皿洗いとかか。
色んな妄想を頭の中で考える。
ふと気づくと修哉は兄が死んで以来初めてウキウキした気持ちになっていた。
いつまでも落ち込んでいたら駄目だ。
俺はもう一人なんだからー
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