あとがき

 みなさんの尊いものはなんですか。


 わたしにとって尊いもの。それはここまで読んでくださった読者のみなさんです。愛してるぜベイビ(あとがきから読む不逞の輩はいないものとする)。


 冗談みたいな話ですが、「放課後のタルトタタン~穢れた処女と偽りの神様~」は作者の処女長編となります。


 9年に及ぶ執筆歴で最長の物語であり、念願のカクコン参加作です。もっと言うと、構想だけなら10年以上に及びます。着想時の原型は留めてませんが、まさにこの話を書くために小説を書きはじめたと言っても過言ではないかもしれません。


 これだけ時間がかかった理由はいろいろあり、詳細は述べませんが、困難な旅路でした。


 なにせ小説の書き方などろくにわからない状態で着想したものですから、そもそもが無理のある構想なのです。


 それを徐々に覚えた技巧でどうにかごまかし、さらに、時代情勢の変化なども踏まえて内容を更新していく必要もありました。


 動乱の世の中。さすがにこれ以上抱え込んでいると作中の「現代」が「現代」ではなくなってしまうという焦りもあって書き上げたのですが、何せはじめての長編で、文字数も想定以上に嵩み、まだまだ粗っぽい部分も多く残っています。


 自分の中ではまだまだ未完成です。けっきょく書きはじめる前と同じようにどこをどうしたらいいのだろうと悩んでいるのが現状だったりします。


 創作は永遠の暗中模索であり、人生も似たようなものです。放タルで描こうと試みたのもそのような人生観、世界認識でした。


 その曖昧さこそが、「境界線上のガールミーツガール」、「不可知的敵現代ファンタジー」と名乗る所以です。既存のタームを使うなら、「幻想ミステリ」というラベリングが適切でしょう。


 放課後のタルトタタンという物語は現代を舞台としつつ、そこに伝奇やファンタジーの要素が紛れ込んでくる話です。しかし、それらの要素は確たる証拠を持ちません。あくまで状況証拠の積み重ねによって説得力を得る構成になっています。


 こうした設定でも、あくまで現実的に、科学的に説明しようとすればそれは折り目正しいミステリーとなるでしょう。あるいはそうした設定を前提として認めることで、オカルトミステリー的な方向にも持っていけたでしょう。


 が、放タルはそうしたストーリーテリングを可能としてくれるような探偵役、トラブルシューターを欠いています。


 知佳はあくまで新天地で居場所を確保しようとする転校生の少女にすぎず、積極的に怪異の正体を暴こうとはしてくれません。


 結果、エンタメとしてのダイナミズムやわかりやすさを欠くことになってしまったわけですが、そこにどうにか必然性を与えようともがいてみたつもりです。


 放タルはあくまで、誰が何を信じるのか、何を信じさせたいのかという話であり、それをミステリー的な手法を用いて解きほぐしていく話です。


 のっぺらぼうの「真実」。そこに何を見出すか。何を望むのか。


 そうした少女たちの思い、願いこそが本作の主題です。


 ミステリージャンルでありながら、曖昧な部分を多く残す結末となっているのもそのためです。事実ではなく、感情の部分に焦点を当てたかったのです。


 いちおう、作者の中では何パターンかの解釈があるのですけど、そのうちどれが正解であるのか、というのは特に決めていません。やはり真実はのっぺらぼうなのです。そこに何を見出すかは読者の方に委ねたいと思います。


 なお、体験記で各話の軽い振り返りを掲載しています。また、完結を迎えたので、今後はより突っ込んだ裏話をしてみようかなとも思っておりますのでよければそちらもお付き合いください。


 第7回カクヨムWeb小説コンテスト想定体験記

 https://kakuyomu.jp/works/1177354055641619152

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