異世界に来るということ
俺は都内に住む高校生だった。
家族は俺と母と父、そして姉と妹の5人家族だった。友人にも恵まれ、楽しく幸せな日々を過ごしていた。
だが…いや、やめておこう。
どれだけ懐かしんだとしても、あの頃の日常はもう戻らないのだから。
みんなには、もう会えないのだから。
◇◆◇◆◇
さて、じいちゃん直伝サバイバル術のお時間だ。
サバイバルにおいて地球も異世界もそこまで大きくは変わらないだろう。
まずは水を探そうと思う。水があれば清潔さを保つことができるし、最悪食料が見つからなくても、数日は飢えを凌ぐことが出来る。
幸い、大樹の根本にはそこそこ大きな穴が空いていたので寝床には困らないで済みそうだ。
さっそく、迷わないように木の枝を折ってに目印を着けながら、森の中へと足を踏み入れた。
歩きだして20分程たっただろうか。
どこからか滝の流れるような音が聞こえてくる。
しめた。
そう思い慎重に音のするほうに進んでいく。
そこには予想どおり、川があった。上流には6メートルほどの大きさの、小さな滝もあった。
川の中を覗いてみると、数匹の小魚が泳いでるのがみえる。どうやら、ここの水は安全なようだ。水を手ですくい、口をゆすぐ、そして飲む。ゴクリという音と共に、喉が潤っていく。
ふぅ。やはり水は生物にとってなくてはならない存在だな。ついでに、手や顔、髪なども綺麗にしておく。
できる限り清潔にしておかなければ、病気や寄生虫につかれたりしてしまうからだ。
さて、思いの外早く水を見つけることができたのでまだまだ時間には余裕がある。
なので、自分的に水の次にほしい、ロープを手に入れよう。
ロープは色々なことに使える。罠や火起こし、道具作りなど、たくさんだ。それを作るついでに、ナイフも作ってしまおう。
川の回りの川原には、大小様々な石なあった。そこから、手頃な岩を2つ手に取る。
本来石を割ることはとても難しい。なので、石同士で削りとるという方法をとる。だが、やはりそれでも何度か失敗してしまい1時間程頑張りなんとか使えるような石のナイフが完成した。
少々不恰好だが、仕方ないだろう。
一度森に帰り、つたの生えている植物を探す。
そして、見つけたつたを切り、ナイフを使ってほぐして、繊維にする。あとは、その繊維をくねくねと編みこんで完成だ。あとは、比較的まっすぐな木の棒と弓状の棒、枯れ木の屑などを集めて、組み立てると、弓式火起こし機の完成だ。キリモミ式の方が簡単なので、それでもよかったが、あれは火を起こすのにとても体力を使う。この何があるか分からない状況で無駄な体力を使いたくない。火起こしは慣れないとそれなりに時間が掛かるが、俺は慣れているので、数分で火が着いた。
さて次は、みんな楽しみ食料確保の時間だ。今日狙うのは、ザリガニである。ザリガニは綺麗な水でも汚い水でもいるので、最初に捕まえるにはいい獲物だ。
異世界にもザリガニがいるかは、わからないが。一応探してみるとしよう。
探し始めて10分ほどたっただろうか。
いま俺の目の前には狙っていた獲物がいた、異世界の固有種なのか甲羅の色が青いが、問題はそこじゃない。
「デカイな…」
体長が30センチを越えていたのだ。もうザリガニというよりロブスターだ。当然ハサミもでかいので、正面から捕まえるのは難しいだろう。見た感じ、泳ぎはそこまで早くないので、後ろから慎重にいこう。
あれから数時間程たった。あのザリガニモドキは実は本気をだしていないだけで、本当は泳ぎがうまかったので、捕まえるのに結構苦労した。最終的には、俺が最終兵器のロープパイセンで絡めて捕まえた。捕まったザリガニモドキはハサミを掲げて威嚇していたが、俺が首をへし折ると大人しくなった。
当然火は消えていたのでつけ直しだよ。ちくしょう。
火起こしをやり直してザリガニモドキを豪快に素焼きにして食事にする。当然塩も醤油もないので味は薄い。不味くはないが旨味に欠けるといったところだ。
ふと気づくと回りが橙色に染まっていた。日が落ち欠けているのだ。太陽と7つの色とりどりの月が織り成す光景はとても幻想的でファンタジーのようだった。
そして、そこで気づいた。
いや、本当は気づいていた。ただ、その現実から目をそらしていただけだ。
異世界に来た。ということはもう、あの世界には帰れないということだろう。そして、もう皆には2度とあえないということだ。たとえ、戻れるのだとしても、俺に帰る権利などない。
家族みんなでどこかに出かけることもできない。
友人達とバカな話しで笑いあうことも出来ない。
姉や妹と一緒にアニメを観たりすることも出来ない。
母さんの美味しいご飯ももう食えない。
父さんと一緒に釣りに行ったりも出来ない。
なにも出来ない。
俺はこれから一人で生きていかなければならない。
なぜならここは異世界だから。
みんなとは、文字通り、住む世界が違うのだから。
「…ごめんなさい…」
目頭が熱くなる。涙が雫となり、次々と溢れる。涙といっしょに鼻水が垂れてきて顔がぐちゃぐちゃになってしまう。
しかし、涙は止まらない。帰りたい。けど帰れない。俺がいる限り、みんなは不幸になってしまうから。
みんなを死なせてしまうから。
俺はあそこに居てはいけないのだから。
「ごめんなさい…!」
だから、俺は謝ることしか出来なかった。
俺はここで生きていかなければならない。
この素晴らしく綺麗で優しく、そして残酷な異世界で──
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