20.かのんの父親
衝撃的な出会いから、コーヒーショップへ場所を移した俺たちは、テラス席で顔を向かいあわせていた。
父親のおごりということで、ランチを食べ終えた直後にも関わらず、かのんは生クリームがたっぷりと乗ったフラペチーノを注文し、美味しそうにすすっている。
……いやいや、かのんさんや。「甘くて冷たくて美味しー!」とか言ってないで、こっちをどうにかしてもらえないかな?
ダンディこと、かのんの父親である『
俺は俺で、ごちそうになったカフェラテを一口も付けることなく、カチコチに緊張しているんだけど。
先程までの悲壮感とは一転、かのんのお父さんは穏やかな微笑みをたたえて、俺を見やっている。
……まったく、ついさっきまでの状況が嘘みたいだ。
***
「そうかそうか! 君が、あの時の彼か!」
かのんに呼びかけられるなり、瞬時に事態を把握したのか、身なりを整えた雪之新さんは、ハッハッハと爽やかな笑い声を上げて俺の背中をバシバシと叩いた。
「初めまして、彼氏君。私はかのんの父親で『天ノ川 雪之新』という。どうか気軽に『ユッキー』と呼んで欲しい」
爽やかに白い歯を覗かせる雪之新さん。いやあ、とてもじゃないけど呼べそうにないっスね……。
「もう、お父さんってば!! 蓮くんは彼氏じゃないって!! 幼なじみ! 幼なじみだって言ったじゃない!」
彼氏という単語に反応してか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にすると、かのんは父親をポカポカと叩いている。
「ハッハッハ! 似たようなものじゃないかっ!」
「違うもん! まだ彼氏じゃないもん!」
「おやおや、それでは近いうちに彼氏になるのかな?」
「もうっ、もうっ!」
……何だ、このじゃれあいは? 何を見せられてるんだ? っていうか、貴方先程まで絶望的な顔されてましたよね?
「まあまあ、いいじゃないか。どうやらその心配はなくなったからね」
「はあ……?」
「とにかく、立ち話もなんだ。場所を移そうじゃないか」
***
……と、そんなこんなでいまに至るワケですが。
席についてから、ユッキーこと雪之新さんは一言も発せず、ただニコニコとこちらを眺めているだけなので、逆に怖いっていうか。
彼氏がパリピだったらうんたらかんたらって言ってた張本人なのだ。彼氏ではないにせよ、自分の愛娘が男を連れている現状が愉快であるはずがない。
場の雰囲気に困惑した俺は、たまらず雪之新さんへ話しかけた。
「あのう……。お、怒らないんですか?」
「何がだね?」
「その……。先程、娘さんとデートする相手が気になるとか仰っていたので……」
「怒ってほしいのかい?」
「そういうわけでは」
「冗談だよ。私として嬉しいと思っているぐらいさ」
嬉しい? なんでまた?
「先程、私があの場にいる際のことだ。多くの人が見てみぬふりを決め込む中、声をかけてくれたのは君だけだった」
コーヒーを口元に運び、一旦喉を潤してから雪之新さんは続ける。
「もしかしたら面倒事に巻き込まれるかもしれないだろうに、それでも君は人助けの選択肢を選んだわけだ。違うかい?」
「まあ、そうですけど……」
「正しい行いを理解していても、それを実行するのは難しい。ましてや君ぐらいの若い子ならなおさらだ」
「……」
「だからかな。きちんとした相手だと思ったのだろうな」
「ふふーん。そうでしょう、そうでしょう!? 蓮くんってばすっごくいい人なんだからっ!」
話に割って入ってきたのはかのんで、すでに三分の一ほど無くなったフラペチーノをテーブルへ置き、ふんすとドヤ顔を浮かべてみせた。
「蓮くんと一緒にいるのを見た時はビックリしたけれど、お父さんが不安に思うような人じゃないんだからね!」
「うんうん、そうだなあ! 流石は我が娘だけのことはある! 人を見る目は私譲りといったところだな!」
それから顔を見合わせて、「ウヘヘヘ」とだらしない笑い声を上げる天ノ川親子。こういうところは似ているなとは思うけど、ひとり取り残された俺はどうしたらいいのか、誰か教えてくれないか?
「いやはや、これは失礼した」
笑い声を収めた雪之新さんは、再びこちらを見やった。
「実を言うとね、心配する必要がないと思ったのには、もうひとつ理由があってね」
「理由、ですか?」
「うん。君のことは、七年前から知っていたのだよ。岡園蓮くん」
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