この荷物は承れません
なにも見えない。闇の中でただ生臭さだけが鼻について闇雲に暴れていた。
「ちょっと何⁉︎ 魚住さんこれ退かして!」
「よく僕だとわかりましたね」
「この魚臭さ他に誰がいるの!」
地味に失礼ですね、とぼやく声に手を引かれ、たたらを踏みながら数歩移動する。そうしてようやく視界を覆っていたものが取り除かれ、蛍光灯の白が眩しくて目を瞬いた。目の前には案の定魚住さんが立っていて、手にはジャケット。あれを被せられていたのか、なるほど臭いわけだ。
「配達から帰ってきたばかりで悪いんですが、窓口がわは立入禁止です」
「え、なんで」
「それがーー「だから無理ですって!」
窓口の方からひときわ大きい所長の声が割り込んできて、魚住さんは鱗を逆立てた。思わず扉から身を乗り出そうとする私を、後ろから胸ビレが抱きかかえるようにして再び引き戻す。
「いくら冷凍されているからって、安全性に不安がありすぎます! そもそもこれ半解凍じゃないんですか?」
「うちの冷凍庫じゃ温度が下がりきらないのよぉ。多分大丈夫だから、ね?」
「多分でうちの従業員を危険に晒せません!」
「西の魔女の家まででいいのにぃ」
「駄目です!」
ここまで荷物を拒絶する所長はなかなか見られない。基本的に何だろうが配達するのがうちの事業所だ。魚住さんのガラス玉みたいな瞳をみた。
「メデューサです。北の沼に住んでたのを狩ったみたいで」
メデューサ。子供の頃に神話で読んだことがあるような。
「ええと、例えば運ぶ途中で解凍しちゃったら?」
「ほぼ間違いなく道中で石になるでしょうね」
ああ、それはちょっと勘弁してほしいね。二人で顔を見合わせて頷く。所長は相変わらず受け入れを断っている様子だった。「仕方ないわねえ」間延びした声が応える。瞬間、閃光が部屋に溢れ込んできて、所長の声が途絶えた。
「すいませぇん、誰かいませんかぁ」
客の声がする。
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