雨の報せ、夏の終わり
まもなく雨が降るよ。耳元で囁き声がした。
空を仰ぐけれど、そこは晴天が広がるだけだった。ぽっかりとまあるい雲がひとり佇んでいる。太陽はまだ空を雨雲に譲る気などなさそうに主張していて、到底雨が降りそうな気配はない。しかし私は「ばあちゃん」と声を張り上げた。起立したとうもろこしの足元でしばらく丸い背中が揺れて、ゆっくりと立ち上がる。
「雨降るよ!」
「あらぁ、そう」
腰を叩き一歩ずつ擦るように足をこちらに進めながら、祖母は汗ばんだ額を首にかけたタオルで拭った。手に持つ籠の中には野菜たちがひしめきあっている。
縁側まで戻った祖母は「スイカ食べようか」と言った。
「雨がやんだら涼しくなるから、散歩にでも行こうかね」
祖母は笑っている。背後に見える空は相変わらず突き抜けるほど青くて、蝉が煩く鳴きわめいている声に包まれる。到底雨なんて降らなさそうなのに、祖母は当たり前のように私の声に耳を傾ける。
「なっちゃんの言うことは当たるからねぇ」
こうしてなんの根拠もなく突拍子もないことを言う私を、クラスメイト達は気味悪がった。当たると不気味がるし、当たらないと嘘つきだと詰られる。どちらに転んでも悲惨だった。言う私が悪いのだろう、でも例えばその列車が事故にあうと知って黙っている選択肢が私にはなかった。
夏休みはまもなく終わる。あの教室に戻らなければならないのかと思うと気が重くて、溜息をついて等間隔に整列したとうもろこし達を眺めた。私はああして並ぶことができない。とうもろこしの間から何かが私に手を振る。
「なっちゃんはちょっとだけ人より色んなものが見えてしまうけど、」
汗を拭いた祖母は私の隣に腰掛けた。
「今は嫌かもしれないけど、きっと彼等に助けてもらうこともあるから。嫌いにならないことだよ」
皺だらけの手が私の髪を柔らかく撫ぜる。
「うん、」
地面にぽつりと水滴が跡を残した。
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