46.

 幼女はソファから立ち上がると、ゆっくりと本棚に向かった。隙間なく敷き詰められた本を退けると、中から小さな木箱が出てきた。それを危なげなくテーブルの上に置くと、箱を開けてみせた。


「これー、ノアんからの預かりもんー。アノちんが来たー、渡すようにみたいなー」


 小さな木箱の中に入っていたのは黒い短剣だった。持ち手が円錐に近い奇妙な形をしているが、間違いなく剣であり武器だった。


「……これを僕に?」


 緑の幼女は首肯する。

 意味が分からなかった。姉は突然失踪したまま帰って来なくて、遺書さえ見つからなかったというのに。それがこんな形で……

 短剣を持ち上げてみる。重い、いや、軽いのか?中に何か入っているようだった。重心がずれると手が持っていかれる。まるで誰かが僕の手を引くようだった。


「姉さんはこれで何を……そうだッ、姉さんはまだ生きているんですか!そういう事ですよね!」


 僕は声を荒げて問いただした。

 幼女は沈黙の後、背を向けて言った。


「それはわちんにもわからなー。けろ、この世界に"いた"のは事実よんー」


 曖昧な解答だった。けれど僕にはそれで充分だった。"戦え"という事なのだろう。僕は姉さんを失ってから、何にも興味を示さなくなった。無気力になって、ただ欠けた日常を埋め合わせるような毎日しか送れなかった。

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