2.遠くない未来の話

2.

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 学校へと向かう通学路。


 僕は今日という日を一番嫌っていた。学校で"集団予防接種"を受ける日だからだ。


 遠い昔、不摂生な感染症対策により長期にわたって中止されていた集団接種。大気汚染が深刻化した今日、再び現実のものとなってしまった。


 半年に一度、打つ必要がある。任意だが汚染による健康被害は計り知れない。店に入る際も、接種証明書を提示しなければならないので今や日本国民の八割がこの接種を受けている。


 階段を登り、歩道橋を幾ばくか歩く。目先には僕と同じ高校の学生服を着た仲睦まじい二人組の女子生徒。


「え!プロフ表示されてんじゃん!もしかして【eye(アイ)】買ったかんじ?」


「そそ。昨日買ったばっかりなんだけどね。もう楽しみで仕方なくて。急いでセットアップ完了させちゃったよ〜」


 タッチ型携帯端末に代わる次世代の通信機【eye(アイ)】。米国に拠点を置く世界的な企業、リプルコーポレーションが開発した"コンタクトレンズ型マルチデバイス"。


 眼球に直接装着し、網膜投影によって視界にあらゆる情報とアプリの使用を可能にする。ひと昔前に流行った仮想・拡張現実も使えるんだとか。


 周囲を見渡すとランドマーク設定された学校に今日の天気。ニュース。その他アプリやツールが表示されている。


 手持ちデバイスは過去のものとなった。


 手が塞がらず、一点に集中して前方不注意を起こす事もない。その便利さあって普及率は凄まじい。今や一人一台が当たり前の時代である。


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