3.
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校門を通り過ぎ、下駄箱で靴を履き替えた。
覇気のない面持ちで教室へと向かい、いつもの席へと座る。ホームルーム前の教室はいつも賑やかだ。
僕はそれを羨ましく思う。高校生活を始めて半月の今も尚、友達が一人もいないからである。
自分で言うのもなんだが僕は周りと比べてずっと気が弱いほうだ。声の掛け方も分からなければ接し方も分からない。入学式、隣の生徒に声を掛けられたけれど、上手く返せずそれっきり。
彩のない世界に閉じこもるのは想像以上につらくて悲しい。暗い高校生活。後の三年間を思い、僕は青息吐息を漏らした。
こんな弱々しい自分になったのは、いつからだろうか。こんな時、姉さんならどうするだろうか。
僕には姉がいる。いや、正確にはいたのだ。僕が中学生の頃、家を出て行ったきり行方不明となってしまったのである。あまりに突然の出来事だった。
何をしても優秀。母親のような包容力のある人で分からない事があれば何でも教えてくれた。僕はそんな優しくて頼り甲斐のある姉が大好きだった。
ホームルームを終え、授業が始まった。一限目の授業が中盤に差し掛かった頃、クラス全員の受信フォルダに【予防接種】の通知が届く。
廊下へ躍り出ると、クラスの生徒全員が列をなして目的地へと進んだ。辿り着いたのは多目的ホール。電子音楽部がよく練習をしている場所だ。
ホール内には既に他クラスの列が散見でき、僕達のクラスは一番最後のようだった。
待つことしばし。ようやく自分の番が回ってきた。
カーテンの仕切りを潜る。同時におかしいな、と、少し思った。何故なら、遠隔操作のロボットではなく、白髭を生やした老人男性の医者が腰掛けていたからだ。
多くのモノが自動化された現代。医者でさえ人力というのは珍しいのである。
「えーと、一年の……
「は……はい。……お願いします」
古臭い低声が開始の合図をすると、医者は手早く聴診器で心臓の鼓動を聞いた。僕は左腕の袖を捲り、腕をL字型にして老医者に突き出す。医者は注射器を構えると、迷わず丁寧に薬液を注入した。痛くはなかった。
医者に礼を述べ、カーテンの仕切りを抜ける。去り際に見た老医者の素顔は優しい雰囲気ではなかったが信頼のおける顔付きをしていた。
教室に戻ると、目に見えて違和感を覚えた。過半数の生徒が机に突っ伏したり、椅子にもたれかかって、ぐったりとしていたのである。僕は少し不気味に感じながら自身の席へと腰を下ろした。
時間帯的に授業はもう直ぐ終わる。視界内に表示された時計を刻一刻と眺めていると、不意の眠気に誘われた。同時に謎の
そこから先はよく覚えていない。
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