1.プロローグ
1.
──これは貴方が考える程、そう遠くない未来の物語
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どこか御伽話のような鼻歌が聞こえる。心地よくて優しい女性の声音だ。
小さい頃の記憶なのだろうか。言葉の意味など知る由もなくて──だけど、ずっと聴いていたくなる。
柔らかな微笑を讃えた口元が仄かな灯火に照らされる。そこから先は覚えていない。
「夢」を見ているのだろうか。
──行かないでよ……姉さん……
──姉さん……!
酷く抽象的な体感をすることもあれば気が狂うような感覚になったり。夢には不思議な魅力がある。
枕下に見たい夢の「事柄」を挟み込むと、脳裏に理想の情景が映し出されるという。十六歳。なんて、話を信じられないくらいには疑い深くなった。
「夢」は時に現実を見せるという。
──起きて……よ………
──目を覚ましてよ……
取り止めもない感覚が頂点に達す。僕はいつの間にか、ベッドから起き上がっていた。
カーテンの隙間から一筋の斜光が漏れ出ると、脇にある写真立てを強く照らした。
そこには気色の笑みで佇む一人の若い女性が写っていて、目元が僕とよく似ていた。その表情を見る度に目頭が熱くなる。
「今日もまた一段と弱くなってしまったよ」
独り言を呟く毎日。
枕下に手を伸ばすと、古びた絵本が出てきた。いつだか読み聞かせてもらった思い出の本。懐で抱きしめると乾いた紙の匂いが空虚に香り、目からこぼれ落ちた煌めきが頬を伝った。
僕は「夢」を見ていたのだと、気付いた。
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