バーチャル・ハルミネイション
ARuTo/あると
0.5
「わぁ……!赤い……赤いお月様」
都心の夜空に浮かぶのは赤黒いルビー。
「皆既月食もそろそろ終盤か。今年は天王星食も同時に起きているんだとさ、アノ」
「てんおう……?」
「太陽系第七惑星。地球と同じ青い星だ。場所は……そうだな」
身のほっそりとした女性は暫し思案した後に言った。
「ねぇアノ。けん玉で遊んでみない?」
「けん……悪い奴をこらしめるカッコいいやつだ!」
「ちがうちがう。もっと気軽に楽しめる
女性はベランダから室内に入ると自身の勉強机に向かい、引き出しを開けた。中にはけん玉が二つ入っている。それらを取り出し、片方を弟のアノに手渡した。
「紐の先にまーるい玉が付いているね」
「……りんご!」
「確かにそう見えるかも。この玉をこうしてッ……棒に突き刺したら成功という訳だ」
上下に動く手首。玉は宙を舞う。流麗な髪を揺らしながら女性はいとも簡単に玉を突起物に嵌め込んで見せた。
「えいっ……!」
アノは見よう見まねでけん玉に挑戦する。芯を捉えるばかりか何度やっても空振った。
その様子を見て女性は苦笑した。
「見た目以上に難しいだろ。玉を正確に棒に突き刺すには振り子の遠心力、位置把握能力、そして手首の精密な動作が必要だ……ってまた訳の分からない話をしてしまった」
「……てんおう!」
アノは中々成功しないけん玉に苛立ったのか、声を上げた。
「はいはい。そうだったね。それについてまだ答えていなかった。ちょいとけん玉を貸してごらん」
女性はアノからけん玉を受け取ると、それを床に立てて見せた。
「これが太陽ね。そして天王星は……こーんなに遠くを回っている」
自らが所持していたけん玉を大きな弧を描きながら展開する。
「ちきゅうは?ちきゅうは?」
「太陽のすぐ近く。米粒くらいの大きささ」
アノは目を丸くした。尚も好奇心は止まらない。
「てんおうに行きたい!」
「急だね。うーんと……残念だけどそれはちょっと難しいかも。なんせ何十億って距離があるからね。今の技術だと精々、木星が限度かな。……まあ着陸できないけど」
女性の様子を見てアノは肩を落とした。
「でも大丈夫。私達には想像力がある」
女性は手首を捻ると回転する玉の軌道を楕円に変える。赤い玉は徐々に中央のけん玉に接近し、やがて衝突した。
「物理的に行けなくてもいい。もしかしたら、何かが縺れて向こうからやってくるかもしれない。私はそう信じてる。だからアノも不可能なんて考えずに夢を見なさい」
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