第9話 成長
彼と会って五年がたっていた。
「元気でね・・・こまめに手紙を書いてね」
「はい・・・お母さん」
「いつでも帰ってきていいんだから」
「はい・・・お父さん、先生・・・本当にありがとうございます」
私たち先生二人は結婚し、それを機に彼を「息子」として育てることに決めた。私たちには子供も生まれたが、彼女は「見えていた色」が証明した通りの「母性の強い女性」であり、自分の赤ん坊にも、彼にも分け隔てない愛情を変わらず注いでいた。しかし、彼を養子にするかどうかは私たちの悩むところだった。そうすると彼がこの「動かすことのできない金のかかる財産」を引き継がなければならないからだ。
そしてある日の事、彼は私たちに言った。
「庭師になりたいんです、この国でも有名な庭師の所に弟子として入り、腕を磨きたいんです。善悪花だけではなくて、もっと色々な草木とも話がしてみたい」
「でも大変なことだと思うわ」
「どの仕事も大変です、お母さん、きっと」
その言葉に、私たちは彼が大人になっていたことを完全に見落としていたのに気が付いた。確かに彼の将来についていろいろと考えた事はあった。私たちが通ったような学校に行けば、生まれの事で嫌な思いをすることもあるだろう。それも可哀そうだと、親として思っていたのだ。
「お父さん、お母さん、本当にありがとう。僕を養子にと思っているのでしょうけれど、さすがに盗みに入った所を相続するのは気が引けます。僕には十分です、あなた方が僕にくれた、本当にたくさんの愛情で」
彼女も私も涙が止まらなかった。そうして数か月後、また叔父の紹介である高名な庭師の所に出発することになったのだ。庭師は尊敬される仕事ではあるが、儲かる仕事という訳でもない。そんなところは私たちに似てしまったのかもしれなかった。
「じゃあ、善悪花をよろしくお願いします」
息子は将来への一歩を踏み出した、そのとても喜ばしいことと相反することが、私たちには待ち受けていた。
小恐怖 善悪花 @nakamichiko
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