第8話   たくらみ


「先生、本当にきれいな絵! 」


 植物画は、貴婦人の趣味の一つとされているが、彼女の物はそれをかなり超え、それが芸術的であるというより「本当に正確に描きたい」という思いが強いように思えた。


「先生はそんなに上手なのに、画家になりたいとは思わないの? 」

子供らしい質問を彼がすると

「私が好きで描いた絵がお金になるかどうかは、とても難しいことなのよ。それよりも、今咲いている花を忠実に描く方が好きみたい」と正直に話した彼女に、私は好感を持った。


 叔父は「数日中に絵の先生がそちらに行く」という手紙はくれたが、それが女性であるとか男性であるとかということは、一言も書いてはいなかった。

私と同じような育ち方をした貴族の娘、それゆえに共感することは多々あった。


「本当にこの色にお二人は見えていないんですか? 」

「ええ」

「僕はね、最近ちょっとココアの色に似てきているかもしれない」

「彼は子供ですから、その時に幸せを感じる色に見えることも多いそうです」

「私の見えている色どうなのですか? 」

「先生の色もとてもキレイ、心の美しい人は、きれいに見えるんだって、」

「まあ、ありがとう。でも絵を描いていると、そう醜い色というのも、あるようでないようにも思うのだけれど」

「そのように考えていらっしゃるから、猶更美しい色に見えているのでしょう」

「では・・・例えば警察が連れてきた人の色を、私が写生すると」

「それはしてはいけないようです、現地では他の人がどう見えているということを「言いふらす」ことは絶対にしてはいけないことになっています。警官にもそのことは伝えてあります。この子にも警官が来ている時には側に行かないようにと言っていますから」

「わかりました、おっしゃる通りに」


 彼女も広すぎる屋敷の一員となり、三人で月日を過ごすうち、


「先生たち結婚すればいいのに」


と小さな男の子は、会ったことのない叔父のたくらみを言うようになった。





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