第4話   森の中の花

 


 この土地はアフリカでも高度の高い所に位置しているため、木々が生い茂っている。町からそう遠くない森の中を、私たち三人は歩いていた。


「どうしてこのことを私にお聞きにならなかったのですか? 」

町長が私に尋ねた。

確かに住むようになって一年以上、ここ半年は調査には出向かなかったので、私も気が付いていた。それは少し離れた町や村から、誰かに連れられた人が、この町のシャーマンと共に森の中に入っていく姿を何度か見たのだ。

「此処の風習ですから、教えてくださるまではと思いまして」

「ありがとうございます、これは数の少ない特別な花なので、取られたりすると大変なのです。ですから本来はとても遠回りをしてこの場所に行くことにしています」


「花? 」

私の疑問に答えることもなく


「まっすぐ来るのは本当に珍しいことだ」


とシャーマンは初めて声を出した。多分彼としては町長から頼まれて私を「しぶしぶ連れてきた」という感じだった。


「ああ、着きました、さて、この花、何色に見えますか? できるだけ詳しく言ってください。一色なのかどうなのか、花びらの色が全部同じなのか違っているのか」


「え? 」


町長は何の冗談を言っているのかと思った。見るとシュッと茎が伸びた、手のひらくらいの割と大きな花だ、特別な感じはしない。と言っても私は植物を研究材料として見たことは一度もないため、毒性を持つもの以外は、学校レベルの知識しかなかった。


 しかし、楽し気な町長とは違い、シャーマンの私を見る目が真剣だったため、とにかく私はその場で詳しく色を言った。花の色をこれ程詳しく説明したこと自体、人生初の経験だったが、よく見ると、花びらの一枚がほんの少し「妙な色」になっているのに気が付いた。妙な色と言うのは、枯れているとか、虫に食われたとかいう訳ではない。花の色は大体一色か、その系統の色になるのが普通だ。だが私が見たものは別の花びらの色とは真逆の色、それが 花びらの一部分だけでそうなっているのだ。


私の色の説明を聞いた後、シャーマンが微笑んでこう答えた。


「あなたはやはりとても良い方です、心が正しく、間違ったことしない勇気をお持ちだ。あなたの見た色は「最高色」と呼ばれているものです」

「素晴らしいですね、私にはそこまで見えない。半分くらいは同じですが」

「私はシャーマンなので、どう見えるか言うのは止めておきます」

「ハハハハハ」


二人は笑ったが、私には何故彼らがそう言うのかが、わかろうはずがない。


するとシャーマンが説明してくれた


「この花は善悪花と呼ばれています。悪いことをする人間、考えている人間には色が違って見えます。そしてその人間が自分を正し、まっとうな生活を送ることができるようになれば、また花の色が違って見えるのです」


「まさかそんなことが・・・・」


すると今度は町長が

「犯罪を犯した者、また犯しそうなものにこの花を見せて、今の心の色を確認させる。彼らが見るこの花の色は、やはり美しいとは程多いものの様です。そして自分が変わってゆくと花の色も美しく変化する。この町では、生まれた子供が物心つくかつかないかの時にこの花を見せます。そしてその色によって、シャーマンが薬を投与したり、祈祷を続けたり、ということをするのです。

実は私も若い頃、人生に迷った時にこの花を見に来ました。もちろんシャーマンに連れてきてもらってですが」


「本当に・・・違って見えるのですか? 」

「ええ、まあ、こればっかりは本人しかわからないですから何とも言えませんが、私にはあなたの言ったようには見えていません」


「あなたはまだ若いといのもある、これから先、まだ色々な事があるかもしれないが、きっとこの花があなたを守ってくれるだろう」

そう言ってシャーマンは私にとても小さな袋をくれた。


「種を渡すのは初めて見ましたよ」

「私も初めてだ。だが最高色を見た人間には渡さなければいけないことになっている。一応持ってきておいた。私の予想の一部分が当たって良かった、町長」

「これからもお願いします」


町の二人はそう話し、森から出た後、私はシャーマンに色の話をとにかく聞かせてほしいと頼み込んだ。町を出る直前まで、私は彼の話を必死にノートを取り続けた。




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