第6話潜伏期間

難しい話だが、難しい。

俺はそんなに頭がいいとは思っていないから、なんでそんな小説を読んだか自分でも疑問に思う。

誰だよ、あの小説を俺に奨めたのは。

思わず顔がチベットスナギツネ。


現実と小説はもちろん違うんだけど、当てはめて考えた方が今後行動しやすいと思う。


歩く道の横には水路がある。

そこには昨日までと変わらず水がひかれていた。ただ、少し少ない気がする。流れもない。

工場からの水が止められているんだろう。


あの工場は、あの後どうなったんだろう。

そういえば


俺は足を止めた。


潜伏期間。

ウィルスに感染してから発病するまでの期間。


工場に行ったのが昼過ぎ。そこで汚染が起きたとして、父さんの発病は同日の夜。

いくらなんでも早すぎないか?


いや、参考がエボラ出血熱だ。違う病気ならあり得ることなんじゃ?

確かエボラ出血熱は『急性ウィルス疾患』、症状が進むスピードが早い病気だったはず。それより更に早いぞ?数時間だ。

インフルエンザだって数日はかかるだろ。

感染してすぐ発病する病気なんてあるのか?


そもそも、感染したのは本当に昨日だったのか?


俺は考えた。でも、夏休みに入ってからこの町に来た俺には町の異常なんてわかるはずもない。だって通常の町の状態を知らないのだから。


今考えても遅いか。

だって、もうウィルスは水に溶けて水路で巡ってしまったんだから。


俺は止めていた足を再び動かし出す。


町は、どうなっているんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る