第156話 タッケノコ料理
みんなでのんびりと歩きながら明日の作業予定について話し合ったりしながら畑のあぜ道を通り広場へと着いた。着いたのだが何かがおかしい。空気がピリついているのだ。だがそこかしこにいる民は普通に生活をしている。原因を探ろうとするとスイレンが叫んだ。
「あ! お父様がいる! タデも!」
スイレンが指さす方を見ると、レンガの焼き場と自宅の間に私が作った以前トウモロコーンを焼いたオーブンの前にお父様とタデがいた。だが二人とも地面に座りうつむいている。真っ先に反応したのはヒイラギだった。
「ナ……ナズナも帰って来ているかな? 確認しないと」
そう言い残しそそくさと走り去ってしまったのだ。突然どうしたのだろうと思っていると後ろからハマスゲに声をかけられた。
「姫様、オヒシバが心配です」
微笑みながらそう話すハマスゲに、イチビもシャガも「寂しがっています」「早く行かないと」と言い出し走り去って行ってしまった。確かにいつも側にいる人がいないと不安になってしまう気持ちは分かる。私たちもまた普段いるはずのお父様が一晩いなかったのだ。スイレンと手を繋ぎお父様の元へと走った。
「「お父様ー!」」
私たちの声にお父様が顔を上げたが、それと同時に自宅からお母様が出て来た。するとお父様はまた俯く。
「お母様!」
「お母様もおかえりなさい!」
私たちはお母様に走り寄ると、いつもの優しい微笑みを浮かべている。
「ただいまカレン、スイレン。良い子にしてた? 今日はカレンが新しい食材を採ってきたと聞いたけれど?」
お母様は私とスイレンの頭を優しく撫でる。私たちは嬉しくなりお母様に今日の報告をした。
「そうなんだ! カレンったらすごいんだよ! また向こう岸に行ったんだ!」
「どうしてもタッケが必要だったの。その芽を食べようと思って」
そうお母様に報告をしていると、お母様の背後から怒鳴り声が聞こえた。
「なんだと!? 向こう岸に行くのは禁止したはずだ!」
確かにお父様の言いつけを破ってしまったのだ。おとなしく怒られようと覚悟するとお母様が微笑んだまま言葉を発した。
「子どもたちを怒鳴らないでと言ったわよね?」
お母様はそのまま振り向いてお父様の前に進んだ。
「モクレンは誰よりも力があるし、民たちの為に誰よりも体を使って作業しているのは私が一番知っているわ。でもこの国をここまで緑豊かにして食べ物まで作り、さらに売り物も作ってくれたのはカレンよ。スイレンがこの国で一番計算が出来るから水路の建設も捗っているのよ。カレンとスイレンに謝って」
お母様の表情は私たちからは見えないが、聞こえて来る声はそれは冷え冷えとしていて目に見えない圧力を感じる。お父様は蚊の鳴くような声で「すまん……」と顔を上げない、いや、上げられないまま呟いた。ちなみにタデは最初に見た時のまま微動だにしない。気付けば後ろにいたはずのじいやも居なくなっている。さすがにいたたまれなくなり、私はお母様に声をかけた。
「お……お母様、そろそろ夕食の用意をしようと思うの……そこの窯を使いたいのだけれど……」
そう言うや否やお父様とタデは蜘蛛の子を散らすようにどこかへ走り去ってしまった。呆気にとられたがこのままでいるわけにもいかない。
まずは窯を温めようとすると、どこかで見ていたのかイチビたちが薪を運んで来てくれた。オヒシバが「火加減もお任せください!」と言うので、私はタッケノコの下処理をすることにした。下処理といっても汚れを落として縦に半分に切るくらいなので、スイレンやイチビたちがやってくれると言う。
そして茹でタッケノコを作る為に湯を沸かそうとするとどこからともなくじいやが現れ、鍋に水を入れたり竈に火をつけたりとせっせと忙しそうに動いている。ここで気付いたのだ。みんな私の両親を避けていることに。けれど私は気付かないフリをした。
こちらのタッケノコは穂先を斜めに切り落とし、表面の皮にだけ切れ込みを入れる。日本のスーパーに売っているタケノコであればアク抜きが必要だが、タケノコは収穫してからえぐみやアクが出始めるのでその日採ったものはそのまま食べられる。よく米ぬかと一緒に茹でると言われるが、えぐみの成分にシュウ酸が含まれていて米ぬか内のカルシウムと結合することによって食べやすくなる。
ここに米はないが、ムギンから出たふすまやムギン粉を入れれば代用は出来る。ぬかとは穀物の表面を削った粉状の物質だ。麦にもカルシウムは含まれているのでムギンもムギンのふすまもきっと入っているだろう。試したことはないが、茹でる時にカルシウムがあれば良いので卵の殻でも代用出来ると思う。貧乏育ちだったからこそ代用品や栄養について調べたことがあったのが大いに役に立った。
窯が温まったようなので茹でる作業はじいやたちに任せることにする。吹きこぼれと浮かないようにと注意をし、窯へ移動してタッケノコを入れていく。時折ひっくり返したりしながら焼き、焼き上がったものを取り出しては新しいタッケノコを焼いていく。少し冷ましたものの皮を剥いて刺し身のように切り、皿に盛り付けていくのを繰り返した。
茹でたほうも火が完全に通っていたが、こちらはこのままお湯に入れたまま冷まして明日の朝食時に食べることにする。
「さぁ食べましょう」
私が窯で焼いている間に女性陣はムギン粉から作ったナンのようなクレープのようなものを作ってくれ、サラダも作ってくれていた。塩と醤油ことセウユを用意しタッケノコは好みの味で食べてもらうことにした。この歯ごたえと鼻に抜ける香りがたまらない。初めて食べた者たちも夢中になって食べている。お父様とタデは広場の端の目立たない場所で食べていたが、一口食べて目を丸くしていた。
明日の朝食も楽しみね。焼いたものとは一味違うタッケノコ料理を振る舞うわよ!
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