第155話 タッケの利用

 スイレンの鶴の一声に、わざわざイチビたちはナーの花畑の脇に植えられたデーツの場所まで行き脇芽を掘り起こして来てくれた。畑に植えているデーツは売り物にする甘いものなので、景観の見た目重視で味は関係のないデーツを持って来てくれたのだ。面倒なのでここに近い畑のデーツで良いと思った私は頭が下がる。


「ねぇカレン、あの大きな実の成るココナッツ? というのはどう植えるの?」


「あれは実を置いておけば勝手に芽が出るから後でにしましょう」


 笑顔で質問をするスイレンに対して疲れきった私は物置小屋に置いたココナッツを取りに行くのもオアシスまで歩くのも面倒になりそう言うと、意外にも「じゃあ後で良いね」と引き下がってくれた。この細かな性格のスイレンと一日いっぱい一緒に作業をする水路建設の者たちに脱帽してしまう。とはいえ、これから私がやろうとしている作業もなかなかに骨が折れると予想されるのだけれども。


「さて……ようやくタッケの加工に入れるわね。人工オアシスがオーバーフロー……水が溢れないように手入れをするわ」


 もし人工オアシスの水が溢れたら大変なことになってしまうだろう。最近では多少草が生えているが、乾燥しきった砂漠で雨が降ると砂に水が吸収されずに流れて鉄砲水になると聞いたことがある。

 なので人工オアシスから見えないように排水管を作り地中に埋め、目立たない場所にオーバーフローした水で貯水池を作ろうと思うのだ。池があれば付近の畑にも水やりがやりやすいだろう。その池もまた溢れないように排水管を作り南側にある川に放流しようと計画している。本物のオアシスが砂丘の窪地にあるので間違ってもそこに水が流れ込まないようにしなければならない。そのことを全員に伝える。


「その為のタッケだったのですな」


 じいやたちは驚きつつも感心している。


「そうよ。まずはタッケの節に穴を開けましょう」


 竹の節抜き道具はここにはないので手作りすることにする。その為に結局物置小屋に行くことになり、ココナッツの実もいくつか持って来た。

 物置小屋の中で使えそうな道具は石を割るノミだった。普通のノミと平刃のノミを持って来たが、このノミに細いタッケを固定する。そして穴を開けたい太いタッケに勢い良く差し込むのだ。数回繰り返せば中の節にしっかりと穴が開くのだが、イチビたちは「ニコライ殿に専用の道具を作って貰おうか?」などと話している。それも良いかもしれない。そうしている間に上から下まで全ての節を抜いたタッケが数本出来上がった。


「これからどうするの?」


 地面に寝転がりタッケの中を覗き込みながらスイレンは質問をする。


「このタッケを組み合わせるわ」


 まずは人工オアシスの蛇籠を積んでいる途中の場所にタッケを移動させる。そこにタッケを置き、後でタッケが目立たないように小さな蛇籠で目隠ししてほしいと伝える。このままだとオーバーフローした水と一緒にゴミなども流れてしまうので、タッケが詰まらないようにフィルターの役割をするものが必要だ。それにちょうどいいのがココナッツだ。


「じいや、これを割ってほしいの」


 近くの岩場に茶色のココナッツを持ってじいやを連れて行く。岩場にココナッツを置きじいやに岩を持たせて叩きつけてもらった。手加減をしたとは言うが一発で割れたココナッツを見て、じいやは「こんなにも固いのですか」と驚いていたが、私としては一発で割ったじいやに驚く。

 割れてヒビの入ったココナッツを無理やり力技で開けてもらうと、中には中果皮が入っている。俗に言うヤシの実繊維である。フワフワとした繊維を集めているとじいやは興味深そうに見ていたが、それを丸めてタッケに入れるとみんなに感心されてしまった。完全に取り切れていない節の部分に引っかかり、それ以上奥へといかないからだ。


 今ココナッツ繊維を入れたタッケは一番太いタッケだったが、その直線上の砂を大人たちに掘ってもらう。ある程度掘ってもらったところで次のタッケを用意する。人工オアシス側を先端部分にしたおかげで太い根元部分が砂の上にあるのだが、そこに少しだけ細いタッケを差し込み無理やり連結させタッケの排水管を延長する。


「多分、おそらく、きっとこれで大丈夫よ」


 大雑把な私の発言に呆れ笑いをする者、溜め息を吐く者と分かれたが私もこの作業は手探りなのだ。失敗したのならその時にみんなで知恵を出し合って修正すれば良いのだ。時間はたくさんあるのだから。


「さぁ続きは明日にして広場に戻りましょう。タッケノコを料理しないといけないわ!」


 太陽が傾き夕方になろうとしている。私の言った「料理」という言葉に反応してお腹が鳴る者もいた。今日一日頑張ってくれたみんなの為に腕を振るおうと心に決め、私たちは簡単な後片付けをしてから広場へと戻った。

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