第120話 カレンの冒険〜川の中〜

 改めて対岸を見ると結構な川幅なので無事に着けるのかと思ってしまう。いや、王国の未来の為になるかもしれないので着かなければいけないのだ。


「イチビ、まず手前の中州を目指すわよ。滑らないように気を付けましょう」


 すっかり忘れていたイチビの脱いだ服をタッケが入っている麻袋にしまう。そして川の中を進んで行く。手前の中州までかなり川は浅く、滑らないように気を付ければ難なく到着することが出来た。続いてこの中州の直線上にある二つ目の中州へと進む。出発した川岸地点から一つ目の中州まではだいたい足首ほどの水量だったが、二つ目まではふくらはぎを超えるくらいの水深だ。


「イチビ、大丈夫!?」


「はい!問題ありません!」


 お互いに声を掛け合いながらゆっくりと進み、無事に二つ目の中州に到着する。このまま順調に三つ目の中州にと思い川を確認すると、ちょうど川の真ん中部分にあたる二つ目と三つ目の中州の間の水の色が違う。あそこは足がつかないくらい深いのだろう。


「ねぇイチビ、あそこの水の色が違うでしょう?多分あそこは足がつかないわ。このまま少し上流に向かって歩いてから、流されるように泳いであの中州に行きましょう。足がつかなくても冷静にね」


「……!はい!分かりました!」


 私たちは向きを変え上流に向かって慎重に歩く。この辺は川岸に比べ流れも速いうえに私の膝を超える水量だ。危険なのは分かっているがかなり慎重に亀の歩みで少しずつ上流に向かう。この無駄に長いタッケさえなく一人であれば構わず泳ぐがそうもいかない。どうにか歩を進め、川遊びの頃の経験を思い出しながら程よい場所で足を止める。


「まず先に私が行くわ。ここからあの中州を目指せば流れに乗ってイチビでも着くはずよ。ただ川底を見ると潜在的な恐怖に襲われるかもしれないわ。それでも冷静に力を抜いて小刻みに足を動かしてね」


 頷くイチビをその場に残し水中に体を入れる。うっかり得意だったクロールをしそうになったがイチビにはバタ足しか教えていない。変な動きをして混乱させないように私もバタ足で進む。一番深い場所を横切る時にあえて水中を観察する。透明度が高いおかげで見通しが良く、川底に枯れ木と思われる横たわったものを見つけた。魚礁になっているのか魚の姿もたくさん見える。木は水の中にあれば腐らないと聞く。昔はこの辺りも緑溢れる場所だったのかもしれない。

 そんなことを考えているうちに中州の手前まで進んでいた。この辺はもう足がつくので立って振り返る。


「イチビー!この辺は足がつくわ!深い場所には大きな枯れ木があったわよ!魚もたくさん!」


 あえて先に情報を伝えて驚かないようにしようと叫ぶ。イチビは怯える様子もなく大きく息を吸い込み水中へと入った。ここまで巻き込んでしまって、万が一イチビが……と思うと祈らずにはいられない。両手を胸の前で組みイチビの動きを見ていた。途中イチビの動きが止まり、驚いて名前を叫ぶとバタ足を始めて無事にこちらに着いた。


「イチビ!大丈夫!?」


「はい、問題ありません。川底にあった木を見て、この土地にも木があったんだなと思ったら泳ぎ忘れていました」


 イチビに駆け寄り心配すると笑顔でイチビは答えた。私と同じようなことを思い、そして見入ってしまったようだ。バタ足で泳ぐことに関してはもう大丈夫そうではある。ホッと一安心し先に進むことにした。途中に中州があるがわざわざ寄らなくても大丈夫そうな水深であったので、ゆっくりと慎重に歩きついに私たちは未踏の地に到着した。振り向いて向こうを見るとシャガたちが大きく手を振っているのが見えた。こちらも手を振り返し、そしてこの上の大地に進む方法を考える。

 向こうからは崖のようにも見えたが、いざ近くで見るとかなり急な岩場の斜面になっており、その一部からは水が滲んでいるようだ。


「もしかしたらあちらよりも水が豊富なのかもしれませんね」


 イチビも私と同じことを思ったのかその斜面を見て呟いた。

 どこか登りやすい場所はないかと行ったり来たりしていると、他よりも緩やかになっている場所を見つけた。その斜面はデコボコとしていたので、それを足掛かりにして進めば問題なく上に着きそうである。ロッククライミングと比べたら全然ラクだ。


「じゃあ行きましょう」


 どちらが先に登るかで話し合ったが、そこまで危険はないと判断して私が先に登ることになった。万が一落ちたらイチビが受け止めると言ってくれる。それだけで安心感が増す。

 河川敷の少し急な土手を登るようなイメージで一歩ずつ進む。そして最上段に手をかけ顔をその位置まで移動させた。


「わぁ……」


 ようやく私は誰も見たことのない場所に到着した。

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