第61話 挿し木
戻る道すがらたくさんのことを考えた。前世はただの小娘だった自分には出来ないことが多すぎて、そのせいで上手く国が発展しないのかと落ち込んでみたり、少しずつ水路建設が進んでいるのを嬉しく思ったり。一人百面相をしているうちに広場へ着いた。
森は相変わらずの成長を見せ、朝よりも木々は伸びている。徐々に範囲も広がり、私とスイレンが初めて外に出た時の光景と様変わりしている。開花している木もあれば葉が落ちる木もあり、落ちた葉は腐葉土の材料となり新たな土になる。力のある民は間伐をし、ハコベさんを中心とした女性たちは挿し木で増える木々の植林をしているようだ。
挿し木の文字が頭に浮かぶと同時に畑を任せているエビネたちに呼ばれた。
「姫様、先日植えた新しい野菜が芽を出しましたよ」
嬉しそうに目を輝かせ、私にとっても嬉しい報告をしてくれた。
「本当?見せて」
私は水路建設メンバーに休むよう声をかけ畑へと向かう。
オックラー、パンキプン、キャベッチの種はほとんど発芽し土からひょっこりと双葉を出している。発芽さえしてしまえば、この土地の力でぐんぐんと成長するだろう。オーニーオーン、キャロッチ、グリーンペパーは苗を植えたが、こちらも成長点から新たな枝や葉を出していた。
そういえばテックノン王国のニコライさんに頼んだ物を木製で作ってもらう予定だったが、木材はまず家の建築に回してもらおう。納品されるまでは我慢しようと思いながら果樹の確認にも向かう。
果樹たちも順調に成育しているようで安心する。ラズベーリに黒ベーリ、オーレンジンにグレップ二品種、チェーリにアポーにリーモン。食べることは出来ないコートンの木に、早く育ってもらいたいペパーの木。全部を細かくチェックしたが病気の問題もなさそうだ。ならば、と私は思い立つ。
森の近くに出来た材木置き場へと向かい、明らかに家の建築には使えない短い板はないかとあさっているとヒイラギがやって来た。
「何かお探しですか?」
「あ、ヒイラギ。板材を探しているのだけど、大きな物はみんなの家の建築に使ってほしいから使い道のなさそうな物を集めたくて」
「相当数必要なのですか?」
「いいえ、そんなに数はいらないわ」
そう言うとヒイラギは吹き出す。
「間伐した木が毎日増えていますから、そんなに気にせず使って良いのですよ?何に使うんですか?」
「本当に良いの?……ええとプランターという大きな鉢が欲しくて」
私の言葉が分からないのかヒイラギは首を傾げる。よくよく聞いてみると『鉢』という概念がないようだった。
「そっか……私のいた世界では植物を容器に植えて育てたりするの。その容器を『鉢』というの。素材は様々ね。森はあるけど森の中で生活をするわけではないから、花が綺麗だったり自分が好きな植物を家の中で育てて楽しむの。葉を見て楽しむものは『観葉植物』と呼ばれていたわ」
「その『鉢』というのが欲しいのですね?」
「そうね。正確に言えば鉢よりも細長い『プランター』と呼ばれていたものね」
ヒイラギは興味を持ったようで「早く作りましょう」とはしゃいでいる。板材を組み合わせ、ヒイラギが得意とする釘を使わずに板を組み合わせる技を披露してくれた。底面に排水用の穴を開けてもらい、よく見かける横長のプランターをいくつか作ってもらう。ついでに、と図々しいお願いもし、もっと底の深い物も作ってもらう。途中から人が集まり始め興味深く見ているので『鉢』の説明をしたところ、やはりみんなは驚きと興味で騒いでいた。
まずは底面にその辺にある小石を敷き詰める。軽石がないので小石で代用だ。みんなにも水はけをよくするのと空気を入れる為に必要だと説明しながら小石を詰める。そして森の土を恵んでもらい小石の上に被せていく。そしてハコベさんを呼び、カゴを持って一緒に果樹園に向かった。
向かう途中で、畑の土がまだ不完全なので直接畑へ植える前に発根させたいと伝えると「なるほど!」とハコベさんは感心してくれた。思わず笑みがこぼれる。
「ハコベさん、挿し木に適した枝を見繕ってもらっても良い?」
「任せて!」
ハコベさんはテキパキと作業をしてくれ、果樹の種類ごとにカゴに入れていく。コートンは挿し木には向かないようで種から育てることにし、ペパーはツルをいくつか採取した。どの植物もあんまり採取するといけないとある程度にし、プランターの場所に戻った。
この世界でも挿し木のやり方は一緒で、採取した枝を土に挿して水を与える。プランター毎に同じ種類の枝を挿し、余ったプランターには昨日洗ったデーツの種を植えた。種を水に浸そうかとも思ったが、この世界のものであれば上手く発芽するだろう。
一通り作業を終え、切れ味の良い刃物を借りてデーツの木の根元に行き子株を切り離す。そしてそれは深めのプランターに植え付けた。ちゃんと雄と雌を分け、プランターに分かるように印も刻んでもらった。
「さぁこれで挿し木と株分けは終了よ。あまり日の光に当てすぎてもいけないから、少し移動させましょう」
額の汗を拭いながらそう言えば、みんな手分けして土の入った重いプランターを持ってくれた。置き場所は悩んだが、管理と観察がしやすいように私たちの家の壁際に置いてもらった。
大規模果樹園に向けての一歩を踏み出せたわ。どんどんと増やしていくわよ!
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