第60話 カレンの左官職人育成

 翌朝、朝食を食べているとお母様に話しかけられた。


「どうしたのカレン?難しい顔をして。口に合わなかったかしら?」


 朝食の茹でトウモロコーンと適度に潰され塩で味付けされたマッシュポゥティトゥはとても美味だ。


「あぁ……違うのお母様。やることがあり過ぎて、どれも優先順位が高くて何をどうすれば良いのか悩んじゃって」


 するとお母様は悲しげな表情になる。


「そうよね……全部カレンに頼ってしまって申し訳ないわ」


「違うわお母様!私は楽しんでやってるし別にいいのよ。ただ早くみんなに楽をさせたくて……最低限みんなの家に壁だけでも作りたいの」


 慌てて弁明するとようやくお母様はいつもの表情に戻った。


「カレンが教えてくれた間伐という作業のおかげでどんどん木材は手に入っているわ。もう少し乾燥させればたくさん板を作れそうよ。だから間もなくみんなの家が作れるから安心して」


 お母様はそう言って優しく微笑んだ。確かに森は連日急成長をしていて、間伐をして手入れをしなければいけない程だ。そのおかげで必要な木は手に入っている。お母様たちは最近は毎日火を使った料理を作っているが、まだ乾燥しきっていない木材を使っているので白い煙が多く出る。その煙も日々少なくなっているということは木材の乾燥が上手く進んでいるんだろう。


────


 朝食を終えた私たちは今日もカゴを被って現場に向かう。そして昨日養生をした部分の確認の為にシーツをはがし近付いて見てみる。連結部分はひび割れも無くしっかりとくっついているようだ。


「すごいわ!問題なさそうよ!一応水漏れがしないか確認をしてみましょう」


 まだまだ先の長い作業なのに、何個かの石管がくっついたことでみんなのモチベーションが上がる。お父様は急いで水を汲みに走り、沈殿槽に溜めることなく直接石管に水を注いでもらった。


「出たぞ!」


 出口部分にいた民が嬉しそうに声を上げる。私はみんなが喜んでいる中、連結部分から水漏れがないかをチェックする。一晩で乾いてしまった土台の粘土が濡れていたらどこからか水が漏れてるサインだ。くまなくチェックをしてみたけれど、どこからも水は漏れていなかった。


「大変よ……全く問題ないわ!」


 私の言葉に全員が笑顔で拍手をする。


「それじゃ暑くなる前に昨日の続きをやろう」


 スイレンの号令と共に全員が動き出す。ヒーズル王国の民のすごいところは、全員が自分で考え自分が今出来ることを探して作業をすることだ。スイレンの細かな指示が無くてもテキパキと行動してくれる。

 私も昨日と同じくモールタールの製作から始めるが、熱心な者はスイレンを呼んで比率について尋ねる。私たち姉弟は丁寧に分かりやすく説明をしながらモールタールを作る。


 今日も私は左官の腕を惜しみなく披露し、養生用のシーツを全部使う範囲まで石管をくっつけた。昨日の今日なのにみんながテキパキ動いてくれるおかげで思ったよりも早く作業が終わってしまい、いい機会なのでモールタールの扱い方を教えることになった。


「タデ、作業中に悪いのだけれど、できるだけ大きな岩を割ってほしいの。なるべく表面は水平だとなお嬉しいのだけれど……」


 タデは「すぐに出来ますよ」と岩を加工し始めたので、手先が器用な者を集めモールタールを作るところからやってもらう。手に巻くボロ布の数に限りがあるので数人だけになってしまったけれど。

 水を混ぜる前の作業をやっているとタデが岩の練習台を作り終え、お父様やじいやがそれを運んでくれた。

 水を混ぜてモールタールを練ってもらい、コテ板とコテを持たせて練習をしてもらう。初めての作業なのでコテ板にモールタールを乗せるのも覚束ない者もいたが、すぐに感覚を掴んでくれた。


「コテ板に乗せたモールタールを練りつつ、手前から奥にコテを動かしながらコテに乗せるのよ」


 実際にやりながら説明をするも、コテに上手く乗せられない者や、コテに乗ったモールタールの量が多すぎたり少なすぎたりするのを一人ずつ指導する。

 そして練習台で実践して見せて、均一に塗れるよう練習をしてもらった。やはり厚さにムラが出来てしまったりするが初めてなので当然だ。そんな中、見事な塗りをした者がいた。天性の才能の持ち主なんだろう。


「初めてなのよね?すごい上手よ」


「「ありがとうございます!」」


 合格点に達したのは二名いて、ウルイとミツバという名前のようだ。


「ウルイ、ミツバ。二人の腕を見込んでお願いがあるの。私は他にも色々と作業をしたいから、モールタールの作業を任せたいのだけれど……大丈夫?」


 二人は驚き顔を見合わせているが、快諾してくれた。


「期待に添えるようがんばります」


「まだまだ未熟ですがやります!」


 良かった。毎日練習してもらってもっと職人を増やさなきゃ。

 そして私たちは作業を終了して広場に戻ることにした。

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