第41話 リトールの町へ2

 翌朝。一度旅に出たことのある私は手慣れたように支度をする。まだ残っている食糧と、採れたてのトウモロコーンを人数分袋に詰める。水だけはお父様とお母様が汲みに行くと言って譲らないので、そこは甘えることにした。


 前日に、スイレンに言ったのと同じことと畑の管理の仕方をエビネとタラにもう一度教え、二人をメインにして畑を任せることにした。そして植物に詳しいハコベさんとお父様を中心とした男性数人に、切り倒した木と栄養のないこの赤い土で林が作れないか試して欲しいと話した。赤い土は保水力が無いので、毎日少しだけ水を与えて欲しいことも伝えた。

 そしてスイレンにはナーの花のお世話と、畑、森の再生、石切り場の観察と、本来なら私がやらなければいけないことを頼んだ。嫌がるかと思ったスイレンは「民の為になることを頑張る!」とむしろ張り切ってくれた。


「戻って参りましたな」


 じいやはお父様とお母様が歩いて来る姿を見て呟いた。今回は水汲み用に荷車を一つ置いて行くのでもう一台の荷車で向かうが、帰りは荷物や荷車が増えることを予想して同行する人数を増やした。

 まずは前回同様じいや。そしてヒイラギ。新メンバーはイチビ、シャガ、ハマスゲ、オヒシバ、そしてなんと!ヒイラギの奥さんのナズナさんまで加わった。ナズナさんは女性陣の好む野草などを頼まれたらしく、「責任重大だわ」と言いながらも楽しそうにしている。体調はすこぶる良さそうだ。


「姫様」


 お父様たちから受け取った水を荷車に積んでいると、後ろから声をかけられたので振り向くと占いおババさんがいた。最初見たときよりもだいぶ元気になっている。


「姫様、これからのことを占いましたら『新たな出会い』と出ました。……面倒臭がらずにちゃんと話をすれば良き出会いとなるようです」


「おババさん、ありがとう。でも『面倒臭がらず』ってことは面倒ってことなのよね……?」


「まぁ……そうなりますな。私めは文字でしか結果が降りて来ないのでそこはなんとも……」


 苦笑いのおババさん。どうやらこの世界の占いは占いと言うよりも神託や予言に近いのかもしれない。


「では行ってきます!」


「気を付けてな」


 私たちはお父様を始めとする民たちに見送られ旅立った。


 ────


 夜営中、少ない食事をしながら会話が弾む。


「姫様、あのリバーシという物はいくらで売るおつもりなのですかな?」


 じいやにそう言われ考える。この世界の貨幣は金貨、銀貨、銅貨、そして穴の空いた白銅貨だ。白銅貨は紐に通してある。なんとなく前回の買い物の時に見ていて思ったが、日本での買い物の感覚からすると金貨が一万円、銀貨が五千円、銅貨が千円、そして大きな金貨が十万円くらいだろうか。さらに白銅貨は形があって、丸が五百円、三角が百円、四角が十円くらいの価値だと感じた。あくまでも私の主観なので間違っている可能性は大きいけれど。要するに高いもの=一万円という貧乏脳での考えだ。

 そして日本でのリバーシの値段を思い浮かべると大体三千円くらいがいいところだと思う。


「うーん……銅貨三枚くらいで売れるかしら?」


 みんなはその発言で食べていた物を吹き出してしまったり、喉に詰まらせたり、呆然としたり騒いだりと多種多様の反応を見せる。騒いでいるのは主にじいやだ。


「なななななんですと!?大金貨一枚はすると思われますぞ!?」


「え!?そんなに!?でも高すぎたら売れないでしょう?……じゃあ金貨一枚くらいにしましょうか」


 大金貨は十万円くらいの感覚だろう。それでも金貨一枚では安すぎると騒ぐ面々に、将来的に普及させたいからあまり高くしたくないと言うと渋々納得してくれた。今回持ってきたのは全部で三十九枚。全部売れたらわらしべ長者どころではないわね……ふふふ。


「……しばらくはこうやって少しずつ物を作って売って、そのお金で必要な物を買ってと繰り返して、最終的にはみんなにお給料としてお金を渡すつもりよ。森の生活とは違うことばかりになるかもしれないけれど、自然と共存してのどかな生活をしていきたいと思っているわ」


 すると前回同行したヒイラギが口を開く。


「私たちは元々物々交換で生活をしていたけど、こうして物を作って売るという新しい知恵を授けてくれた姫様に感謝しているよ。今はね毎日が楽しいよ。私だけじゃない。ヒーズル王国の民みんなもだ」


 ヒイラギに寄り添いナズナさんも頷く。他のみんなも笑顔で頷く。


「ありがとうみんな……まだまだ先は長いけれど、少しずつ国を発展させましょうね」


 みんながのんびりとした生活をする為に私はさらに頑張って働くことを密かに誓った。

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