第42話 到着

「先生ぇぇぇ〜!!」


「そんな図体で泣くでない!会う度に泣くつもりか!?」


「ね?ジェイソンさん。またすぐ会えるって言ったでしょう?」


 国境へ着き、扉を叩くと秒で開けてくれたジェイソンさんはじいやを見た瞬間に歓喜の涙と雄叫びを上げ、私とヒイラギは苦笑いをするが他の面々は呆気にとられている。


「ううっ……リトールの町へと行かれるのですね?……お帰りになるその時までお会い出来ないのが寂しいです……」


 おいおいと泣くジェイソンさんを「分かった分かった」といなしサクっと国境を通り抜ける私たち。


「ねぇじいや。占いおババさんの言っていた面倒臭い人ってもしかして……」


「……いやいや……面倒ではありますがまさか……」


 そんな会話をしながら街道を歩く。他の面々は歩きながらも採取出来そうな物を見繕っているようだ。一応リトールの町の人に了承を得てから採取することにし、まっすぐにリトールの町へと向かった。

 リトールの町の入り口には相変わらずペーターさんが座っていて、前回とは違い町の中を見ていて私たちには気付いていないようだ。そんなペーターさんの近くでは子どもたちが元気に縄跳びをしている。その様子を見た今回初のメンバーを代表してオヒシバが口を開く。


「あれは何をしているのでしょう?」


「あぁ、あれ?私が教えた子ども向けの遊びよ。もちろん大人でも楽しめるわ」


「姫様が!?ですが本当に楽しそうだ。ヒーズル王国は子どもが少ないですが、帰ったらぜひ教えてあげてください!」


 ヒーズル王国の数少ない子どもたちは食べ盛りなのに食糧が足りず満腹になることがないので基本的にバラックから出てくることはない。動くとお腹が空くからだ。もう少し食べ物が増えると子どもたちも動き出すだろう。


「ペーターさーん!」


 私が大きな声で呼ぶと、ペーターさんはこちらを振り向き目を丸くする。そのペーターさんに向かって私は走り出す。


「おぉ!よく来たな!元気にしてたか?ちゃんと食べてるか?」


 わしゃわしゃと頭を撫でてくれるペーターさん。異世界でも日本のお年寄りのように子どもに対して同じようなことをするんだなと思った。


「もう!ペーターさんったら!そんなに久しぶりな訳じゃないでしょう?」


「ははは!そうだったな!で、今日も買い出しかい?」


「そうね。でもその前に売り出しかな」


 そう言うとペーターさんは驚く。そこに遅れてじいやたちが合流する。


「先日はお世話になりました」


「おぉ!ベンジャミンさん!……そうだ、ジョーイの店に行ってみなさい」


 不敵に笑うペーターさんの言葉通り、私たちはまっすぐにジョーイさんの店を目指す。町の子どもたちは縄跳びに夢中で「これを教えてくれてありがとう」とわざわざお礼を言いに来る子もいた。


「こんにちはー!ジョーイさーん!」


 私が大きな声を出すと店の奥からジョーイさんが走り出て来た。


「カレンちゃん!ありがとう!君のおかげでかなり儲かった!」


「えぇっ!?」


 聞けばほとんど元手がかからず簡単に作れる跳び縄をブルーノさんたちがたくさん作り、ジョーイさんはそれを他の町や村に売りに行き稼ぎまくったようだ。


「ふふふ。なら話は早いわ!今度は大人も子どもも頭脳を使って遊ぶ物を作って来たわ!」


「頭脳?気になる!早く教えてくれ!」


 店の奥に案内してもらい、ルール説明も兼ねて実演することにする。一緒に旅して来たシャガを相手に、実践しながらルールを教えるとジョーイさんの表情は変わっていく。


「……これは……こんなに素晴らしい物に値段なんてつけられない……」


「またまたジョーイさんったら。私は銅貨三枚くらいで良いと思うのだけれど……」


「そんな訳ないだろう!?大金貨一枚でも……」


 と、じいやたちのようなことをブツブツと呟く。貧乏症すぎてそんな大金……と思う私は口を開く。


「今回は金貨一枚にしようと思うの。これだって木を切って作っただけよ?もしまた他の町に売りに行くならもう少し高くしても良いけど、これは金貨一枚で決まり。後でブルーノさんのところにも寄るわ」


「欲がないね。では人を呼ぼうか」


 ジョーイさんはそう笑い、店頭にリバーシを出してくれた。そして私は通りに向けて大声を張り上げる。


「皆さーん!また娯楽の品を作って持ってきましたよー!どうぞ見ていってくださーい!」


 私が店の中から客寄せをすると、じいやたちは通りに出て同じようなことを叫ぶ。するとどんどんと集まる町の人たち。その中にカーラさんもいた。


「カレンちゃん!会いたかったよ!いつ来たんだい?」


「今さっきよ。カーラさんまたお店を放って来たのね。後でたくさんお買い物するわ」


 カーラさんとの会話を終わらせ、リバーシを売り始める私たち。やはり子どもよりも大人の食いつきが良い。一人が購入すると次々と売れ始め、あっという間に完売となった。買えた人はホクホク笑顔で、買えなかった人は残念そうに肩を落とす。


「これからブルーノさんのところに行って作り方を教えるので、後でブルーノさんかジョーイさんが売ってくれるはずですよ」


 そう言うと買えなかった人は楽しみだと帰路につく。そしてジョーイさんとカーラさんにまた後で来ることを伝え、私たちはブルーノさんの家に向かった。

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