第40話 旅支度……?

 あまりにもみんながリバーシにハマってしまったので、全部持って行く予定のリバーシのセットを一つ広場に置き、いつでも誰でも出来るようにした。残りをまとめて私は意気揚々と声を上げる。


「さぁ!リトールの町へ出発よ!」


「……カレンよ。支度もせずに行ける訳がないだろう……行くのはもう止めないが……」


 お父様が呆れ顔で言い放つ。


「分かってるわ!けど色々と必要な物があるから早く行きたいの!」


「その言い分も分かるが、お前がいなければトウモロコーン以外の作物をどうしたら良いのだ?」


 そうだった。畑のことをすっかり忘れていた。私が旅立てば帰って来るまでに収穫時期を逃してしまうだろう。ぐうの音も出なくなった私は畑へと向かう。

 なんとなく見たポゥティトゥの畑だったが、昨日小さな実をつけた株は成長が特に早いらしく、一段階先へと進んでいる。葉が僅かに枯れ始めているのだ。


「あ!ポゥティトゥはもうすぐ収穫出来るわね!これは花が咲いたあと、こんな感じで葉が黄色くなってくるの。半分以上の葉が黄色くなったら収穫時期よ。少し早いけどこの株を収穫してみましょう」


 私は株に手をかけ引っこ抜くと大人の拳大の芋がいくつも土から出て来る。歓声を上げるみんなに「まだよ」と声をかける。


「この芋は根の一部に出来るから、まだ土に残ってる物もあるはずよ」


 そして私は土に手を突っ込み探すと、さらに数個のポゥティトゥが出て来た。


「さぁ次よ!」


 次に向かったのはディーズの畑だ。驚くほどたくさんのサヤが付いていて、枝豆好きの私は思わずヨダレが出てしまう。


「これはこのサヤにうぶ毛がたくさん出来て、もう少し中の実がふっくらしたら収穫よ。これはすぐに収穫しないと味が落ちるわ。あ、これも少し早いけど収穫しましょう。これは増やしたいから何株かは収穫しないでそのままにしていてちょうだい」


 そう言いながら少し未熟なディーズを数株引っこ抜く。そして足早に次の畑へと向かう。


「トゥメィトゥは赤くなったら食べられるわ」


 雑な説明をし、最後の畑へと向かう。


「……これは主食となる物だから、とにかく増やしたいの。だからこの実が大きく膨らんだら根本から刈りとってまとめて寄せておいて欲しいの」


 まだ実の小さな麦と思われるムギンの穂を触る。


「……以上!」


「ちょっとカレン……雑すぎるよ。僕は言いたいことは分かったけど、みんなはどうかな?」


 と、苦笑いのスイレン。


「そうよね……食べ方も言わないといけないわよね……よし!ご飯よ!」


 私の号令に苦笑いしながらも食事の準備を初めてくれる民たちに感謝だ。


「ポゥティトゥはこのまま食べては絶対に駄目よ。簡単な食べ方としては茹でるけど、今日は全員分はないからお父様、お母様、スイレン、じいや、あとはまだ動けない者に少しずつね」


 まずポゥティトゥを水で洗い流して土を落とす。そして鍋に水を入れて茹でる。この簡単な作業だけなのに民たちは興味津々のようだ。ある程度茹で、竹串の代わりに箸を刺して茹で加減を確認する。箸が刺さったのを確認し、ポゥティトゥをお湯から出して一口大に切ってお父様たちに渡す。ポゥティトゥが行き渡らない人たちは今日もトウモロコーンを食べてもらう。


「このままでも美味しいけど、飽きるから塩をつけて食べてね」


「熱っ……だが美味い!」


「歯が弱い人は潰して食べてね。ちなみにトウモロコーンも茹でたり焼いたりしても美味しいわよ」


 ポゥティトゥの試食は好評で、今さらながら茹でトウモロコーンの話をするとみんなそれにも興味津々のようだ。だけど今日はやらず次の作業に取り掛かる。

 ポゥティトゥを茹でている間にディーズこと枝豆を茎からはずし、これも軽く水洗いして塩を揉みこんである。ポゥティトゥを茹でた湯は捨てて新しい水を使うべきなんだろうけど、限られた水を大事にする為にポゥティトゥを茹でたお湯に塩を入れてディーズを茹でる。四〜五分で綺麗な緑色に茹で上がったディーズを、ザルが見当たらなかったのでお玉のような物で掬い出す。


「これはこうやって食べるのよ……あちち!」


 そうして一般的な枝豆の食べ方をする。これは数がたくさんあったのでみんなに行き渡る。


「これは冷めても美味しく食べられるから、タデたちが帰って来たら食べさせましょう。そんなに保存は保たないから、なるべくその日のうちに食べてね」


 鞘からポンっと豆が飛び出る面白さと絶妙な塩加減に民たちは夢中だ。


「これはカレンが夢中になるのも分かるぞ。これはぜひ増やしたい!」


「ね?お父様、美味しいでしょ?あとこの根を見て。根に小さな粒が出来ているでしょう?根粒菌と言ってこれが植物に良い影響を与える物なの。ディーズを植えてた畑に次は違う作物を植えましょう」


 そして私はスイレンを連れて畑へと向かう。まだ色付きはじめのトゥメィトゥを一つもぎ取る。


「これよりも青い物は毒があるから食べないように。死にはしないけど中毒で動けなくなるわ」


 美樹の家の家庭菜園ではトマトも作っていた。酸っぱいのを気にしない私は多少青くても食べていたが、まだ完全に青いのはどんな味がするのだろうかと興味本位で食べ中毒を起こしてしまった過去がある。普段の貧乏飯のおかげか下痢や嘔吐はしなかったけど、とにかくフラフラになって歩けなくなり倒れてしまった。声も出せずどうしようかと倒れたままでいると、一時間もすると動けるようになったので軽い中毒だったんだろう。


「トゥメィトゥとポゥティトゥは茎も葉っぱも食べては駄目よ。さっきのポゥティトゥも芋から出た芽は毒性を持っているわ」


 私だったら食べられると判断し手に持っていたトゥメィトゥをかじる。やはりまだ早いようで固くて酸っぱい。


「この真ん中のジュルジュルしてる部分が種よ。赤くなったら種ごと食べれるけど、一度実がなったらこの作物は終わりなの。だから種を取っておいて」


 種の部分を取り出し、水で洗っては乾燥させることを繰り返して欲しいと言うと、今まで黙っていたスイレンが口を開く。


「カレン?なんで僕に言うの?」


「それは私がリトールの町に行くからよ!スイレン!後はよろしくね!」


 そう言うと「……やっぱり……」とスイレンは呆れ笑いをしたのだった。

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