第39話 売り物作り
翌日、朝食を食べ作業の分担をし終えたところで私はまた今日もナーの花の前に座り込む。
……うっかりしていたわ。あまりにもこののんびりとした日々が心地良くて目先の畑の収穫くらいしか考えてなかったわ……。もっと作物を増やしたいし、果物だって食べたい。その為にお父様たちが畑を耕してくれたし、タデたちが水路の為に日々石を彫っている。そして植えた植物はとても成長が早いのに、そのことも考慮してなかったわ……。そして新しい種や道具のあれこれが欲しいのに、私ったら有り金全部をはたいてリトールの町で買い物をしたんだったわ……。
自分の迂闊さが招いたこととはいえ、悩みが増えた私は立ち上がり広場の方向へ歩きながら頭を悩ませていた。たまたま広場の近くにいた民の会話が耳に入ってくる。
「森よりも乾燥しているせいか、この切った木の乾燥速度が早いな」
「あぁ。森にいた頃よりも早く板材が作れそうだ」
その言葉にピタリと足を止める。昨日切ったばかりの木が分かるレベルで乾燥している?ならシャイアーク国から伐採してきた、使わずにまだ残している丸太は?
私は飲料水用の樽を置いている場所まで走る。ちょうどお父様が水を飲もうとしていたので、私は聞きたかったことをぶつけることにした。
「お父様!お父様!お父様!」
「ど……どうしたのだカレン?水を飲みたいのか……?」
「水は後でいいわ!それよりもこの樽を置いているこの丸太だけど、ちゃんと乾燥している!?」
ビシっと丸太を指さすと、お父様はしゃがんで丸太の確認をする。伐採した時にそこそこ大きな木だったので、体力温存の為にあまり細かく切らずに長めの丸太として持ってきた物だ。
「しっかりと乾燥しているが……どうしたのだ?」
「よし!今すぐ加工するわ!だから昨日切った木と交代よ!」
「なんだ!?意味が分からんぞ!?」
「加工してリトールの町に売りに行くわ!」
「ますます意味が分からん!」
二人でギャーギャーと騒いでいると段々と周りに人が増えて来た。とりあえず私がこの丸太を欲しがっていることは伝わったようで、昨日切り倒した木はこの丸太よりも細いので同じ長さで切り揃えてもらい、後で使おうと思っていたロープで数本をまとめて縛って簡易物置台を作ってもらった。丸太二つを手に入れた私はニヤリとしながらお願いをする。
「ふふふ……この丸太の長さはどれくらいかしら?」
余程気味の悪い笑みをしていたのか、お父様は若干引きながら答えてくれた。
「も……目測だが八十センチほどだが……」
「じゃあ加工が得意なみんな!売り物を作るわよ!」
不思議そうな顔をしている者、ワクワクとしている者を引き連れて広い場所に移動する。そして四十センチ四方の板を作ってもらうように頼んだ。そして余った木片は私が拾い集める。民たちは久しぶりに木の加工ができると楽しんでいるようで何よりだ。
私たちが集まって何かをしていると思ったスイレンは、畑の作物観察をやめてこちらに合流する。
「みんな何をしているの?」
「あ、スイレン!定規を貸してちょうだい」
「……うわぁ……カレン、悪そうな顔してる……」
「失礼ね!売り物を作ってるのよ!スイレンは絶対に気に入るわよ」
そう言うとスイレンもワクワクとしてきたようで、最近は肌身離さず持ち歩いている道具袋からおとなしく定規を出してくれた。出来上がった板を測ってみると見事に言った通りのサイズで仕上がっていた。リトールの町のジョーイさんから受け取った袋の中を漁り、彫刻刀と思われる物を取り出す。
「彫り物が得意な人にお願いしたいのだけど、縦横八つのマス目を作って欲しいの」
みんなそれくらいは出来るようだったけど、特に上手な人がマス目を作っていく。残りの人には別のお願いをする。
「この余った木片でこのマス目よりも小さな正方形の板を作って欲しいの。そしてその小さな板の片側だけにバツ印を彫って」
新たな作業に民たちは楽しそうに作業を進める。そう、私が今作ってもらっているのはリバーシだ。何も緑色のフェルト地の盤面じゃなくても、白黒の石じゃなくてもルールさえ分かっていれば出来るんだ。これを売ってまたお金を稼ぐわ!
「ねぇカレン?これは何をする道具なの?」
「これはね、頭を使った遊びの道具よ」
これで遊ぶと言ってもみんな理解出来ないようで、ある程度石代わりのコマが出来たので実際にやってみることにする。盤面の真ん中に模様の付いているコマと付いていないコマを交互に並べる。
「いい?スイレン。すぐに覚えられるから、実際にやりながら説明するわね。私が模様のある板、スイレンは模様のない板よ」
私はコマを置きひっくり返す。
「こうやって自分の板で相手の板を挟んだらひっくり返すの。最後に自分の板が多い方の勝ちよ。簡単でしょ?この板は……コマと呼んで」
頭の良いスイレンはすぐにルールを理解したようで、私のコマをひっくり返す。それを繰り返すうちに勝負がついた。
「ごめんねスイレン。戦術を知ってるから私が勝ったけど、スイレンならすぐに私に勝てるわ。だから戦術は教えないわよ」
「何これ!面白い!」
スイレンはとても気に入ったようで大はしゃぎだ。見ていた民もやってみたいと騒ぎ出したので盤を譲る。頭脳を使う遊びに大人たちは夢中だ。
「カレンよ。これはお前がいた世界の遊びなのか?」
「そうよ。世界中の人が知っていると言ってもいいわね。少なくとも私が住んでいた国でこれを知らない人はいないわね。似たような遊びはもっと頭を使うから、これは子どもでも出来るし人気ね」
そう言うとみんなに驚かれてしまった。早くリバーシをやりたい人が続出し、まずは作ってしまおうと作業がとんでもない速さで進行した。出来上がるとみんなはリバーシをして遊ぶ。
「みんな、一応売り物だからね……」
私が苦笑いで言うと一瞬ハッとしつつも、みんなは手を止めることはなかった。この国だけじゃなく、世界中に娯楽を広めたい野望を抱いてしまった。
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