第33話 石切り見学

 ほぼ筋肉痛の治っている私と、まだ少し痛みのあるスイレンは見学と称してタデに着いて行くことに。というか、さっき私たちの周りにいた民の半分は見学に着いて来た。


「……こんなに見られると緊張しますね……」


 さっき私が言ったのと同じような台詞を言うタデは道具を持ち大きめの岩の上に乗る。全く動くことのないその岩を確認すると、私とスイレンに近くで見るか訊ねるので私たちは岩の上に登った。

 タデはまずノミのような物で小さな穴を一列に開け、その穴にクサビを差し込み軽く金槌で打つ。そして右から左へ向かってそのクサビを順番に金槌で叩いていくのを数回繰り返すと、面白いほど簡単に石が綺麗に割れた。


「「すごい!すごい!すごい!すごい!」」


 私とスイレンが拍手喝采するとタデは照れたようだ。


「こんな感じで石を切ります……」


 と、赤くなり頬をポリポリと掻きながら説明してくれた。一度私たちに岩を降りるように言うと、スピードアップしたタデはさっきよりも手早く石を切る。私や他の民も見ている中、ある程度の大きさの直方体の岩の塊が出来た。


「姫様、先程言っておられた物ですがどのような大きさをお考えですか?」


 タデに聞かれしばし考える。いつもなら知りたい情報は夢に現れ忘れることはない。けれど昨日は余程疲れていたのか夢を見ることなく深い眠りについていた。ただ私は古い石の水道管を図書館で見た記憶がある。朧気な記憶を脳内の引き出しから必死に探す。


「……確か……長さは一メートルほど……穴は円形で直径三十センチほど……だったかな?」


「穴は円形ですか?ただ掘るだけでは駄目なのですか?」


「うん。一番効率の良い形が円形なのよ」


 タデは少し考えたあと、道具袋から定規を取り出し長さを測る。そしてまた石を切り、縦と横が五十センチ、高さ一メートルの直方体を作る。そして面に円を書こうとしていることに気付いたスイレンは、自分が持ってきていたコンパスを渡そうとするも「大丈夫です」と断られ逆にどう描くか気になったようで目を輝かせて作業を見ている。

 タデはノミとキリの間くらいの鋭い刃のついた道具を二つ出し、その一つと定規を使い頂点と頂点を結ぶようカッターを使うようにスッと傷を付け中心を取った。次に紐を取り出し長さを測る。その紐を二つの道具に結び付ける。一方を中心に軽く突き刺し、もう一方を紐をピンと張ったままぐるりと回すと綺麗な円が表面に彫られた。同じ要領で外側にも円を彫る。


「この円の内側を掘り進め、この部分が差し込めるようにここと底辺を彫れば良いのですよね?」


 タデは振り返り私に聞く。


「すごい!すごい!その通りよ!」


 私の大雑把と思われる説明を見事に理解してくれていたタデに感激する。すると今までおとなしく見ていたお父様が近寄って来た。


「よく分からんが頑張れタデ!お前なら出来る!」


「モクレン……その大雑把すぎる性格をなんとかしろ……」


 大雑把な私たち親子は笑って誤魔化す。しばし和やかな空気が流れていたが、お父様がまたとんでもないことを言い出した。


「確かそれを埋めるんだったな?では掘るか」


 え?と思っていると、これまた静かに見ていたじいやも参戦する。


「ははは。モクレン様、負けませんぞ?」


 お父様とじいやは念の為に持って来ていた道具から、私がリトールの町で購入したスコップを持ち出す。


「お父様!?今掘っても風や雨で埋まる可能性が……!」


「お父様!傾斜を測らないと……!」


 私とスイレンが声をかけても二人は笑顔で「負けない」と張り合いあっていて、二人の耳には私たちの声が届かないようだ。そんな私たちにタデが口を開く。


「……放っておけ。あの二人は基本的に動いていないと気が済まんのだ。たとえ新しく水路を作ると言っても喜んで掘ると思うぞ?」


 今までのお父様のイメージはしっかりとした頼れる父親だったのに、最近はやんちゃな一面も見ることが出来て毎日が新しい発見の連続だ。

 私とスイレンがお父様とじいやを微笑ましく見ていると、どうやら勝負が始まったようだ。お父様が南側、じいやが北側に位置している。水道管は一列に埋めるのに、二人が掘ったら二列の溝が出来ると思ったけど、もう無駄な突っ込みはやめようとおとなしく見守ることにする。

 じいやは川の方向に向かって真っ直ぐに掘り進んで行くが、お父様はなぜか地面の下に向かって掘っている。それを確認した先に進んでいるじいやが突っ込む。


「そういうところですぞ!モクレン様!」


「しまった!だが負けん!」


 ある程度深く掘った穴から力技で掘り進むお父様。だけど掘るのに夢中で方角のことなど忘れてしまったようだ。じいやは比較的真っ直ぐに進んでいるのに対し、お父様はほんの少しずつ南西へと向かっている。声をかけようかと思った時、後ろからタデの声が聞こえた。


「……放っておけ。日暮れになったら気付くだろう。溝を辿って戻って来るくらいの知恵はある」


 パワー系の二人はもはや放っておくしかないらしい。私はそんな二人を眺めブルドーザー要らずだなとぼんやりと思った。お父様の残念なところを見ないようにしながら前向きに前向きに考えた。

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