第34話 お父様の発見
タデの言う通りお父様たちを放っておいて、私たちは石の切り出し作業を見守る。タデの他にも数人がその作業をしている。手先が器用な村出身の人たちなんだろう。意外なことに女性も作業に加わり、細かな作業などは女性がやっている。さすがの私でも石切りは見たことがなく、カーンカーンと甲高い音を奏でる作業は見ていて飽きなかった。だけどまだ立ち上がれない者もいる広場はお母様や他の女性に任せては来たけれど、他の者が心配だという声も聞こえて来たため戻る組と水を汲みに行く組に分かれる。
スイレンにどうするか聞くと水汲みに行きたいという。やっぱり男の子だけあって冒険したいようだ。私も水汲み組に入る。
昨日畑作業を一緒にしたエビネとタラも水汲み組にいて、お父様のこともじいやのこともすっかり忘れ私たちは談笑しながら川へ向かうと、川の手前を黙々と掘り進むじいやがいた。
「忘れてた!じいや!」
「……はっ!私としたことが集中し過ぎてました。どちらが勝ちましたかな!?」
あくまでも勝負にこだわるじいやにみんな呆れて笑ってしまう。というか、お父様がいない……。
「……お父様はどこ?」
「……途中見かけなかったよね……?」
私とスイレンは顔を見合わせる。
「モクレン様は常人では考えられないほど体力がありますので、きっと方角の間違いに気付かずまだ掘っているのでは……」
同じく常人ではないじいやも焦っている。エビネたちに水汲みをお願いし、終わったら真っ直ぐに広場に帰るように告げて、私とスイレンとじいやはお父様の捜索に出た。
じいやの掘り進んだ溝を戻るも、行けども行けどもお父様の痕跡がない。もうほとんど石切りの作業場という辺りで大きく南に逸れるお父様の痕跡を発見した。私たちは「なぜこんなに曲がる!?」と思ったけれど、誰もそれを口には出さず痕跡を辿る。
ある程度お父様の跡を追うと、大きな岩が掘り出されている。どうやら埋まっていた岩を避けずわざわざ掘り出したようだ。そしてさらに進むとまた掘り出された岩が転がっている。お父様の跡を辿りながら同じような光景を何回か見かけると、ようやくお父様が見えて来た。
「「お父様ー!」」
私とスイレンがお父様を呼ぶと、お父様は我に返ったようで手を止めこちらに向かって歩いて来た。
「お前たち……それになぜじいやがいる?」
「モクレン様。失礼ながら方角を間違っておられます……私はもう川まで到着し、モクレン様を探しに参りました」
「なんだと!?私は負けたのか!?」
余程悔しいのか、お父様は四つん這いになり地面を叩いている。
「お父様……ここ……さっきの石切り場の南だよ……」
いたたまれない様子のスイレンはおずおずと、でもハッキリと告げるとお父様は心底驚いている。
「お父様……あの途中に掘り出された岩は一体……?」
「掘り進んでいたら埋まっていてな?邪魔だし避けたら負けた気分になるだろう?」
さすがのじいやも引いている。するとお父様は立ち上がった。
「そうだ。変わった物を見つけたのだが、カレンなら何か分かるのではと思ってな」
そして私たちを手招きし、ついさっきまで掘っていた場所に案内する。近付いて気付いたが、そこは広く円形に土が掘られていた。
「これなんだが」
お父様は掘っていた場所に降り、何かを手にする。
「お前たちが買ってきてくれた道具を壊す訳にはいかないから、岩を持ち上げ振り落として割ったのだ」
なんともワイルドすぎる発言に驚きつつもその手にある物を見て驚いた。
「これは……」
「そっちにもあったぞ。あとこれもだ」
お父様の手には真っ黒の石ころが数個、そして灰色の石の塊があった。黒い石を手に持ち、石にしては軽いのとつるっとした手触りを感じた時に思い出した。これは石炭だ。間違えるはずがない。
美樹だった頃のご近所さんはお年寄りが多く、貧乏など関係なく私は可愛がってもらった。その中の一人に、その昔蒸気機関車の機関士をしていたというご高齢のおじいちゃまがいらっしゃった。おじいちゃまは機関士の仕事をしていたことを誇りに思っており、そして本当に好きな仕事だったんだろう。家には旧国鉄にまつわる物や、蒸気機関車にまつわる物がたくさん保管されていた。その中の一つに石炭があった。私はよくそれを触らせてもらっていたので間違いない。そしておじいちゃまは言っていた。
『たくさん石炭があると勝手に火がついてしまう時があるから、管理はしっかりとしないといけないんだ』
発火点までは一般人の私には分からないけど、この炎天下の下だ。何が起こるか分からない。みんなを危険な目にあわせたくない。
「……お父様、今は多くは語りたくない。一度ここを塞ぎましょう。必要となった時にまたここに来ましょう」
「危険な物なのか!?」
「使い方を間違えれば。……今はまず衣食住を徹底させたいの。これについてはその後に考えたい」
みんなはいろいろと聞きたいようではあったけど、私の言うことに従って穴を埋めてくれた。目印としてお父様が掘り出した普通の岩を山積みにし、お父様が砕いた欠片を持って私たちは帰路についた。
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